表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/601

③歯車は近付き、噛み合い始める

 勇者が立ち上がり、白銀の剣を天井に向けて掲げると、観衆から惜しみない歓声と拍手が響き渡った。


「以上で拝謁の儀を―――」「異議あり!」

 兵士の一人が儀式の終わりを宣言しようとしたその時、民衆の中から一際大きな声が上がる。

 周囲がざわめく中、声を上げた人物は民衆の頭を飛び越え、壇上である赤い絨毯の上に着地する。その姿は黒。黒い布で口元からつま先に至るまで全身を覆っている姿は、忍者や隠密といった姿を思わせる。


「何者だっ!」

 周囲の兵士が瞬時に駆け付け、王の前、黒装束の前に立つ。兵士達は剣や槍を構え、不審者にその先端を向ける。

 だが黒装束は兵士が向けた武器に臆する事なく、王に向かって、そして観衆達に聞こえるように叫ぶ。

「自らの欲の為に他国を攻めようとする暴君よ! その命、ここで散らしてもらう!」

 まさに一瞬、黒装束は兵士達が反応するよりも早く隙間を潜り抜け、パーカス王の前へと飛び込んだ。そして、腰に隠し持っていたナイフを逆手で抜き放ち、王の首を払うように狙いを定める。

 パーカス王は微動だにしない。いや、反応できないのか、このままでは首を跳ねられるのは確実だった。


 だが黒装束の持っていたナイフの刃は王の首に届かず、寸での所で白銀の剣が床へと弾き落としていた。

「去れ、悪しき者よ」

 白銀の剣を掲げた勇者が、王と不審者の間に割って入っていた。

 リコルは構えた剣を頭上で構え直し、黒装束の男を斜めに切り捨てる。


「………ば、馬鹿な。どうして」

 黒装束が膝をつき、布の上から血を吐き出す。

 倒れた黒装束の周りでは血だまりが作られ、そのまま動かなくなった。

 まるで遊園地のヒーローショー。客席から現れた不審者の登場も、仕込みかと思う程に、あっさりと事件が解決する。

 そもそもリリア王女の暗殺の正体とはこの事だったのだろうか。相田は避難の為に、席から離れていた来賓の中にいたリリアに視線を送るが、驚くように口に手を当てている事以外、特に変わった様子はなかった。


「に、逃げるアルよー!」

 民衆の中の誰かの声を引き金に、目の前で人が死ぬ場を見せられた人々は大混乱に陥り、その場から我先にと逃げ出し始めた。入ってきた狭い通路に人が押し寄せ、体をぶつけ合いながら出口を目指していく。

「………俺もこのままいたら不味い、か」

 一般客として紛れていた以上、この場に残れない。相田は他人に紛れながら、進みが悪くなった民衆の最後尾で出口を目指すフリを始めた。


「これはどういうことですかな、リリア王女」

 王女の名を呼ぶパーカス王の声が、相田の耳に入る。

 相田は思わず足を止め、声のする方へと顔を向けると、そこにはリリアに近付くパーカス王の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ