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②勇者とその一行

「皆、表を挙げよ」

 王の号令で、民衆も含め全員が顔を上げる。パーカス王は全体を一瞥し、満足したように両手を胸元まで上げる。

「今日、この日が迎えられた事を大変喜ばしいと思う。これより心、技、体の全てにおいて、誰もが認める力をもった勇者達を紹介しよう。そして皆とこのような素晴らしい時を分かち合い、もって我が国の永遠なる発展を誓っていきたい。我がカデリア王国は―――」

 彼は自国の自慢、自分のこれまでの成果を謳い始めた。傭兵や職業訓練を受けた戦士や魔法使いを数多く輩出してきた事、強大な力をもって周辺国との安定と平和に貢献してきた事などなどなど。

 そして、長すぎず短すぎずの演説が終わり、ついに勇者達の紹介が行われた。


「それでは紹介しよう。我が国の第十三代目勇者、リコルである!」

 王の手が赤絨毯の先に向けられた。

 民衆が入ってきた扉とは異なる扉が開き、数人の人影が姿を現す。

 

 孔雀緑の鎧に赤い外套(マント)を身に付けた男。どこぞの歌劇団のように長身美形、黒く短い髪が清潔感や締まりのある雰囲気を出している。勇者でなくても、王国の若き騎士団長のような品格が見て取れる。


「神官マキ殿!」

 王に代わり、門の前にいた兵士が勇者一行の名を呼びあげる。

 呼ばれた者は一人ずつ王の前へと進んでいく。続いて現れたのは勇者の妹だった。マキと呼ばれた女性は相田が武器屋の前でぶつかった白い神官服をまとった彼女である。


「重戦士セル殿!」

 銀色の鎧をまとった黒い短髪長身の男。身長はザイアス並み二メートルに達しようとあるが、口周りを濃い黒髭で覆っていた。ザイアスが筋肉の塊であるのに対し、目の前の大男はデニスのような長身の戦士を想像させる。

 彼もまた、昨夜銭湯から出て来た相田達を呼び止めた兵士達の中にいた隊長格の一人であった。


「魔法使いクレア殿!」

 勇者一行の最後として呼ばれたのは、あの大貴族の娘だった。鼻を天井に向けるかのような高慢な顔をつくる彼女は、相田と戦った時と同じ赤い魔導服で入場してくる。


「勇者リコルとその一行。パーカス陛下に拝謁いたします」

 勇者の言葉で、四人が王の前で膝をつく。


 パーカス王の横に現れた兵士が、両手に赤い布に敷かれた白銀の剣を持って王の傍まで移動する。

 王であるパーカスは剣を取り、勇者へと近付いた。

「勇者リコルとその仲間達よ。我がカデリア王国最強の戦士として仕え、民の為に仕え、平和の為に仕えよ。そして全ての力を持てあますことなく発揮し、全てに尽くす事を我が名と我が国の名において命ずる」

 王は持っていた白銀の剣の腹を勇者の肩の上に一度置き、次に両手を伸ばして掲げる勇者の手の上に置いた。勇者は跪いたまま剣を受け取り、剣を掲げたままさらに頭を下げる。

「全身全霊をもって我ら一同、カデリア王国と民の為、陛下の御為に尽力する事を誓います」

 台本通りのような言葉が続く。まるで歌劇か演劇の類であった。

 相田は自身の『勇者』というイメージとの差異に困惑する。

 

 勇者は常に『世界の正義の代弁者であり執行者』という感覚が相田の中にあった。その相田にとって目の前の光景は違和感の強い儀式ともいえる。

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