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③タダでは済ませない

 商業の街グーリンス。 ロデリウスが自慢していただけあって、街に近付く度に道行く馬車や旅人の姿が増えていった。

 杖ととんがり帽子を被る男、冒険者であろう剣や弓を携えた若い男女の集団。街興しや即売会のコスプレ会場とは明らかに違う自然とリアルを兼ね備えた空想(ファンタジー)世界が目の前に広がっていた。

 二次元の世界に行きたい。そう願うも叶わない多くの人々の思いを今一人で味わっている。アイダの目は輝き、思わず鼻血が出そうになるのを抑えるよう、頬を緩めていた。

「た、たまらない………」

 思わず口元を手で隠す。


 二階建ての高さと同じ石造りの外壁を見上げていると視界が暗くなった。アイダが見渡すと、どうやら街の入口である石造りの門に入ったようである。

 その中で馬車が止まる。左右の馬車や旅人も同じように足を止め、少しずつ前進と停止が繰り返され始めた。まるで一昔の高速道路の料金所のようである。

 初めは理由の分からなかったアイダも、先頭に近付くにつれてその意味が理解できた。

                                                                                                                             

「アリアスの村から。えぇっと、食材を買いにきました………はい、今日の夕方には出るつもりです」

 リールが父親から預かっていた木製の割札を無愛想な兵士に手渡した。兵士は慣れた手つきで割札の表裏を確認すると彼女の割札を預り、紐のついた木札と交換する。

 馬車が動き出した。


「ショーゴも番号、覚えておいてね」

「お、おう」

 彼女が腕に通した紐付きの木札には四桁の番号が振られていた。この番号が滞在中の身分証明になるのだとリールが手短に説明する。 

 門を通り抜けると青空と共に広い空間が目の前に現れた。そしてその先は外壁程の迫力ではないが、再び石造りの壁と門が旅人達を出迎えている。


「さ、二人とも降りるよ」

 リールは近くに立っていた笑顔の商人に金銭を渡すと、アイダ達に降りるように促す。

 広い空間では、同じように商人と金銭をやりとりする様子が多く見られた。そして他の馬車と同じように、お金を受け取った商人はやつれた服を着た別の男に指示をして馬車に乗らせ、広場の奥へと進めていく。

「成程、駐車場か」

 地面に足をつけたアイダが理解する。チェックさえ済ませば、馬車ごと素通りできるアリアスの村とは異なり、しっかりと管理されていた。


「じゃぁ、僕はこれで。運命の女神が微笑んだらまた会おう」

 ロデリウスは足元に置いていた自分の荷物を担ぎ、片手を軽く上げてその場を立ち去ろうとした。

 しかし、彼の両肩を大小二本の手が掴む。

「な、何かね? 二人とも」

 アイダとリールは互いに残った一本ずつの掌で輪を作り、笑顔と共にロデリウスに見せ付けた。

「お客さぁ~ん?」

 アイダの低い声。

「乗車賃、銅貨五枚になりますぅ」

 とどめにリールが片眼を瞑る。

「………ひ、ひぃ~っ」

 自称、愛の伝道師は、なけなしの銅貨を彼女の手の上に置いていくと、丸くなった背中を見せながら寂しく街の奥へと去っていった。

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