⑫巻き込まれる時は巻き込まれる
「………ガウさん。一体これは? 何が起きたっていうんですか?」
相田は彼に色々と尋ねようとしたが、彼はここでは話し辛いと周囲を見渡し、宿舎とは反対側にあたる曲がり角に指を向けた。そして相田と共に警備兵の傍をなぞる様に道を歩き、人影が少なくなってきた所で、ようやく速度を緩め始める。
「俺達が泊まっていた宿舎、それか俺達の主人達が泊まるホテルで殺人が起きたらしい」
「さ、殺人事件!?」
一瞬、相田は自分の主人の丸い顔を思い浮かべていた。
だが、それもすぐに首を横に振って霧散させる。
「そ、それで? 今ホテルや俺達の宿舎はどうなっているんですか?」
「それが、全然事情が分からねぇ。兵士達がいきなり宿に入ってきたと思えば、使用人も商人も、片っ端から事情を聴いているらしい。特に俺達使用人は主人の許可すらなく、警備兵に捕まってどこかに連れて行かれちまった」
自分は何とか隙を見て裏口から逃げられたと、ガウは説明する。
「だが、お前の姿がなかったからな。もしかしたら、何も知らないで戻って来るんじゃないかと思ってよ………近くで待っていて正解だったな」
彼は自分の事の様に安心し、胸を撫でおろす。
「すみません、心配させたようで」
相田はガウの気持ちに感謝の言葉を送ると、この後の事を考え始めた。
彼の話によれば、殺された貧相な者の正体は、相田と同じ部屋に泊まっていた使用人達だった。彼らは翌朝になっても戻らなかった為、一応とガウが従業員に報告したが、彼等の間では主人から逃げ出したのだろうと、良くある話だとして片付けられていた。
だが、状況が状況だけに、同室だった相田とガウは、警備兵からどんな目で見られるか分かったものではない。最悪、犯人として祀り上げられても不思議はない。
「ガウさんは、これからどうするんですか?」
このまま最外縁部を歩いていても仕方がない。かといって宿舎にも戻れない相田は、彼から良案が聞けないかと尋ねた。最悪、路地裏の装備を身に付ければ、相田は旅人として振る舞える。厳戒態勢の中、路地裏に入る危険性は捨てきれないが、サジーンの行方も分かっていない状態で出来る事はそう多くはない。
「俺はこの街に昔からの知り合いがいるから、しばらくは匿ってもらうつもりだが………お前も来るか?」
ガウは『他に行くところがないだろう』と、相田の肩に手を置く。
だが、彼は何かに気付いたのか、すぐに相田から手を離して踵を返すと、黙って足早になって前を進み始めた。
「ど、どうしたんですか? いきなり」
足早で追いついた相田が、同じ速さでガウの隣を歩く。
「誰かに追われている気がする」
「………なっ!?」
ガウの言葉に、まさかと相田は振り返ろうとするが、彼は相田の横腹に軽く肘を入れて忠告する。




