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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第二章 潜入、カデリア王国
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⑨夜の使者

―――ギシリ。


 深夜。

 相田は荷台が軋む音で目を覚ました。正確にはまだ目を開けていないが、音と僅かに荷台が上下に振動した事から、何か重たい物が荷台に乗ったと察する。

 部屋で知り合った使用人のガウから教えてもらった大衆食堂で一番安い食事を済ませた相田は、銭湯を諦め、宿舎の井戸で汲んだ水で震える体を擦り、馬の世話を済ませた。

 そして、そのまま荷台で横になった。

 ダンジョンRPGにおいて、馬小屋では体力が回復しない。その設定の意味を相田は理解する。実際に寝てみれば、荷台の板は薄く冷たく、そして固い。火を起こせる訳もなく、暖も取れない。

 ホテルの馬小屋といっても雨除けの屋根しかなく、風通しはすこぶる良い。良すぎる。相田は野宿用の毛布を何枚も体に巻き付け、簀巻きになって、ようやく寒さを凌げる事が出来た。

 

―――ギシリ。


 またしても荷台が軋む。

 先程よりも音が大きく、板が沈む深さもより大きくなった。

 誰かが近付いてきている。相田の心臓の鼓動が早まっていく。

 警備が厳重なホテルだが、関係なく賊が出るものなのかと相田は緊張感を高める。万が一には、力を使ってでも身を守る必要があるが、勇者祭が始まる前から目立ちたくはない。

 まずはギリギリまで状況を確認しよう。相田はゆっくりと目を開けた。


「………ザイアス?」

 目の前には筆を持った巨漢のハゲが相田の顔に迫っていた。この寒さだというのに、厚手の鎧以外の部分が露出している姿は変態に近く、世界に二人といない。

「しまった………ばれたか」

 口を横に開き、噛み合う歯の間から空気を漏らすように悔しがっていた。

「いや、そんな趣味があったんですか………さすがに引きます。マジでドン引きっすよ」

「ば、馬鹿野郎! お前の顔に落書きをしてやろうとしてだな!」

 ザイアスは小声の中で一番大きな声で否定する。

「うわぁ。言い訳としてはもう最悪の選択だぁ」

 相田は冗談だと分かっていだが、敢えてからかい続けた。


「ほらそこ、お前ら煩いぞ………まぁ、元気そうで何よりだよ」

「シリアさんまで。どうして二人がここに?」

 荷台の外にはシリアが背を向けて立っていた。ザイアスは静かに荷台から降りると、左手を広げているシリアに銀貨を一枚弾いて渡し、相田や馬車に背を向けて歩き出す。

「そのまま聞きな」

 相田の荷台に向け、一番近いシリアが独り言を呟くように言葉を零す。

「今の私達は、ホテルの外を見回る日雇いの仕事に就いている」

 相田は外から怪しまれないよう、芋虫のように毛布にくるまった状態でシリアに近付く。一方のザイアスは広場を巡回をする素振りを見せながら、松明をもって馬小屋周辺をゆっくりと歩いている。


 シリアは馬車にゴミを投げ捨てるように荷台の中、相田の目の前に丸まった紙を投げ入れた。


「王都の地図だ。気になる所や、逃げ道になりそうな場所には印をつけてある。読み方は………大丈夫だね」

「はい、大丈夫です」

 暗くて地図そのものは読めないが、相田が広げた地図には針の先で突いた程度の小さな穴が所々に開けられていた。地図に開けられた穴は部隊で共有している暗号であり、穴の数で目標や逃走に使える地点を示している。

「あんた達には明日から動いてもらう。ここは見張っているから、今日はゆっくりと休むんだね」

 シリアとザイアスが巡回しているなら心強い。相田は小声でお礼を伝えると荷台の奥へと戻り、安心して目を瞑った。



「どこで寝ていたんだ? 額に墨が付いているぞ」

 翌日。

 使用人達が混み合う洗面所で偶然出会ったガウが、相田の顔を見て首を傾げた。

 相田は洗面所に備え付けられただ鏡を見るや拳を握り、天井に渋い顔を見せた。

「………やられた」

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