⑤上流の流儀
カデリア王国の王都ブレイダス。
人口二万人を超える大都市である。東西南北にそれぞれ門があるが、最も大きいのは西と南の大正門。北側は門はあるものの、すぐ奥は高い山々に囲まれ、東側も広い平原が続くのみで、地元民と物好きな商人以外の人通りが少ない。
王都の守りも両国で異なるのも特徴だった。あらゆる方角からの防御を考え、中央に王城がそびえるウィンフォス王国とは違い、ブレイダスの王城はかなり北側に寄せられている。傭兵王国とも名高い国だけあって、街中にも城壁や門が数多く存在し、区画化された街はそれ自体が個々の砦と化し、攻めづらく、守りやすい構造をしていた。
ウィンフォス王国から出発して七日目の夕方。相田達は、ほぼ予定通りの到着となった。
西の大正門で通常の旅人と同じように並んで手続きを終えると、相田はなるべく宿に近い馬車停めを探そうと手が空いていそうな受付を探そうと、首を高くさせた。
「大丈夫、そのまま馬車を進めるアルよ」
すぐにサジーンは必要ないと相田の頭を押さえる。そして正面の大通りではなく南の外壁に面した横道を指し示し、ゆっくりと進むように相田に指示した。
「いいんですか?」
「ここで馬車を停めている人達は、馬車に人を乗せて商売をする駅馬車か、お金のない商人達アルよ。本来は大量の荷物の運び出しや、長旅による車輪や車軸等の点検も必要ネ。人には身の丈に合った行動が求められるアル。覚えておくといいアル」
しばらく馬車を進めると、大きな広間に出た。
そこではいくつもの立派な馬車が綺麗に並べられ、裕福そうな商人が使用人達に指示して、馬車から荷物の搬出入をさせている。サジーンの言っていたように、職人らしき男が馬車の点検や車輪の交換、さらには馬の世話までしている姿が見えた。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
まるでホテルマンのような上品な格好をした男性が、礼儀正しく相田の馬車に近付いてくる。
サジーンはホテルマンに慣れた手つきで一枚の銀貨を渡す。
「予約しているサジーンなのでアル。勇者祭の三日間の滞在をお願いしたいアル」
「サジーン様ですね。お待ちしておりました」
相田は『サジーンナノデアル様ですね』とホテルマンが誤解する事を密かに期待したが、そこはプロらしく男は、名前を間違える事無く、丁寧な接待を続けた。
「………プロだ」
「アイダ、後は任せたアル。私は先に部屋に入っているから、私の荷物を後で持って来いアル」
「かしこまりました………ご主人様」
急に言い方がきつくなったサジーンだが、ここから気を付けろという意味で受け取った相田は、ゆっくりと頭を下げ、打ち合わせ通りの会話を成立させる。




