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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第二章 潜入、カデリア王国
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④袖の下も能力のうち

「こちらになるアルよ」

 サジーンは木箱の蓋を開けると、中にはワインなどの果実酒が十数本入っていた。

「ええ、確認しました。こちらが代金になります。いやぁ、これで久々に部下達といい酒が飲めます。これからもよろしくお願いします」

 衆人環視が見ている中、まさか賄賂が平然とこんな場所で行われているとは誰も思わないだろう。相田は思わず息を飲んでいた。

 この流れだけを見れば、詰所の兵士が注文した物を商人が届けに来たという構図にしか見えない。さらに部隊長が金属音のする麻袋を商人に渡しているのだから、なおさら真実味が増す。

 部隊長はサジーンから受け取った通行証に、自分の名前をついでのように書き込んだ。


「通して差し上げろ!」

 部隊長の一声で、門を通るための列が止められ、相田達の馬車が先頭に入れられる。

 出口であるカデリア王国側の検問でも、反対側の部隊長の名前が入っている通行証を見せられ、馬車の中を確認する事もなく簡単に通してくれた。しかもサジーンは通り過ぎる前にカデリア王国の部隊長とも何かの話を取り付けている。


「………さすがですね」

 一切の無駄がない行動に、相田は素直に感心していた。

 カデリア王国内に入ってから今更というものだが、相田は自分の身分すら確認されていなかった事に気付く。

「まぁ、中堅以上の商人ならこれ位、誰でもやるアルよ」

 麻袋の中を見たサジーンは頬を緩ませ、相田にも種を明かす。

 中には銀貨、銅貨とそれなりの枚数が入っていた。きちんと数えてみれば分かるが、木箱の酒類の値段の半分程度しかないのだとサジーンが話す。賄賂としては高過ぎず、買い物としては安過ぎずと言った塩梅である。

「嘘と本当は半分ずつ。諜報の常識ネ」

「勉強になります」

 関所を抜けた先も、同じ理由から宿場町があった。こちらはカデリア王国の管轄だが、ウィンフォスと比べても、建物の素材が木材から石材に変わった位で、それ以外の違いは左程見受けられない。


「ここから先は野宿はやめた方がいいアルね。次の街で一泊する事にしよう」

「分かりました」

 自分が任務中である事を改めて意識し直す。こちらに非がない状況でも、問題を起こす事、巻き込まれる事は避けておきたい。サジーンの丁寧かつ慎重な判断に、相田の手綱を握る手がじんわりと汗ばんだ。


 相田はサジーンに言われて、この宿場町で数日分の食料と水を補給すると、カデリア王国の王都までの道のりを馬車を進めていく。

 補給は次の街でも良いと相田は思ったが、こちらの方が物価が安いからとサジーンから説明を受ける。改めて商人としての役の徹底ぶりに感心させられる。

 だが、酒場の看板娘のサージャと隣の怪しい商人がどうしても一致しない。旅をするなら逆が良かったと残念がりながら、相田は次の街を目指した。

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