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⑩親心

「相田、明日の出発だが―――」

「はい」

 相田は久々に隊長の声を聞いた。

「気を付けて行って来い」

「え、それだけですか?」

 夕食を済ませた後、木製のテラスに続くガラス戸の隙間から、涼しい夜風が部屋の中に入ってくる。

 ソファーで向かい合って座るデニスと相田は、コルティが用意してきた果実酒を手にしながら、男同士の時間を過ごしていた。カレンも気を遣ったのか、随分前からコルティと共に台所に行ったまま戻ってこない。


「お前も随分と力を扱えるようになった。一対一(サシ)なら、シリアやザイアスとも良い勝負をするくらいだ。その辺のゴロツキや下級騎士相手なら、もう負けないはずだ」

 デニスが果実酒の入ったグラスを一気に飲み干した。

「まぁ、ゴロツキくらいなら」

 相田はデニスのグラスに果実酒を注ぐ。

 確かに目覚めた力は自分の意思で扱えるようになってきた。体力や戦闘技術も含め、随分と動けるようになったと相田はある程度の実感はあった。


 今回の第十騎士団の任務である勇者祭の潜入捜査は、三班に分かれて行う事が既に説明されている。


 第一班。

 シリアとザイアスは元傭兵という肩書から、里帰りの名目で既に出発している。二人はカデリア王国の王都に滞在しながら、酒場や冒険者ギルドから情報を集める事を任されている。

 第二班。

 相田とサージンである。相田達は第一班からやや遅れて王都に到着し、勇者祭の最終日にして最大の見せ場、勇者の拝謁式に一般人として紛れて参加し、勇者とその一行と呼ばれる者達の情報を集める。

 第三班。

 ポーンとテヌールの二人は、勇者祭を見に来た観光客として一番最後に入国し、先発した四人を支援する。必要があれば、二人が手配した宿などを一時的な隠れ家として活用する。

 明日の朝から出発し、戻ってくるまでの道のりは往復で十四日。そして三日間の勇者祭の計十七日間の旅となる。これは相田にとって初めての長期任務でもあった。


「俺はこの国に残って、王国騎士団の会議に連日参加しなければならん。任務自体は単なる諜報だ。違法ではないとまでは言い切れないが、何処の国でも常にやっている程度の浅さだ。現場の指揮は副長のシリアに任せてあるから、余程の事がない限り問題はないだろう」

 緊張は必要だが、必要以上に気を張る必要はない。デニスの言葉に込められた意味を、相田は受け取った。

「分かりました。隊長がそこまで言うのなら、安心して観光してきます。あ、お土産は何が良いですか?」

「ん………ああ、そうだな」

 相田はいつものノリで隊長の言葉を軽く返したが、デニスの返事は珍しく歯切れが悪かった。まるで子どもが初めての旅行に行くのを見送る親のように、先程から相田への助言に口数が多く、何かと他愛もない表現と内容で心配してくる。

「どうしたんですか、隊長。何か他に心配事でも?」

「まぁ、な。なくはない」

 果実酒を全て飲み干すと、デニスは空になったグラスをテーブルの中央に置いた。


「最近のお前を見ていると、何故だか不安でな………」

「また何か自分………やらかしましたか?」

 予想外の言葉を投げつけられ、相田に動揺が走る。この数日を振り返っても、コルティを連れてきた事以外で、大きな問題をした記憶がなかった。

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