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⑦うちの火竜は、幼いのです

 相田は竜の背中から、石壁付近に鈍く光る武具が目に入った。

 どうやらいつの間にか冒険者が訪れ、剣や盾を捨てていったようだ。この近辺に住む者達やギルドには、王国騎士団経由で洞窟に近付かないよう触れ回ってもらっていたが、地方の冒険者や身の程を知らない人間がこの洞窟に入る事が未だにあるらしく、その都度ガーネットの姿に驚いて、武器やら盾やらを捨てて死に物狂いで逃げていく。


 相田は近くに炭になった人型が横たわっていない事を確認すると、ガーネットの背中を優しく撫でた。

「よしよし、殺さずに追い返したな。偉いぞ~」

 ガーネットが喉を低く鳴らして応える。

 実際に頭は良いのだが、蛮族のように相田と会話をする事が出来なかった。だが、ガーネットの行動と鳴き声から意思の疎通ができている。

 まるで犬である。


 雑巾がけが終わり、相田は竜の背中を二度叩く。

「終わったぞ。それじゃぁ、また来るからな。それまで元気でいろよ、ガーネット」

 相田は竜から飛び降り、脚立を洞窟の隅に片付ける。

 さっきまで左右に揺らしていた巨大な尻尾が止まり、重力に任せるように地面へとズドンと落ちる。

「あー、また仕事が入って、しばらく来れそうに―――」

 相田は言い辛そうに言葉を続けるが、ついにガーネットは首も下げてしまい、まるで駄々をこねる子供のようにその巨体をローリングさせた。

 大型トラックと同じ大きさの巨体が左右に横転している。相田には洞窟が崩れない事を祈る以外、成す術がない。

 ガーネットは寂しい時や駄々をこねる時には、いつも体をローリングさせて故意に体を汚したり、苦手なはずの水に落ち、自分の体を濡らしたりする。

 今回もやはり洞窟の隅に溜まっている地底湖の水に向かって自分から飛び込んでしまった。


「………まったく」

 相田の髪から水が滴り落ちる。

「分かった。分かったから………もう落ち着け」

 仕方なくいつもの言葉を吐く。

 その声でガーネットは暴れるのをピタリとやめた。そして自ら水から這い上がると、そのまま相田の前に濡れた体を差し出す。

 体が汚れたり濡れたりしていれば、また拭いてもらえる。それを理解した上での駄々のこね方は、頭が良いと言うべきか、むしろ幼いと言うべきか。相田は仕方なくガーネットの体を火の魔法で温めてやり、体についた水が蒸発した所を再度雑巾で拭き直した。

「お前、いつの間にか濡れても平気になっているんじゃないか?」

 本人は気付いているか知らないが、水を恐れない火竜となれば、所見殺しにも等しい存在である。


「なぁ、ガーネット」

 相田は明日以降の仕事を考え、一つの提案を試みた。

「お前、俺と一緒に来るか?」

 ポケットから拳よりも一回り小さい赤い宝石を相田は取り出し、それをガーネットに見せる。

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