⑤一択のみの選択肢
相田は体を椅子に預けた。
「ありがとう」
意図を感じたのか、ロデリウスが素直に言葉を述べる。
「実は勇者祭の式典に出席する為、我が国からリリア王女殿下が使者として選ばれる予定になっている。これは文官からの強い要望でね、外交上失礼がない地位の者を送る必要があるとのことだ」
証拠がない為、筋が通っている文官達の要望を彼は拒否出来なかった。
「勿論、護衛には万全をきたす。だけど、万が一に何かが起きた時………僕の考えを理解してくれて、かつどの派閥にも影響されない自由に動ける人間が必要なんだ」
ロデリウスの言葉が自然と強くなる。
「場合によっては、我が国の存続に繋がる重大な案件だ。相田君が必要だと思う物は全てこちらで揃える。遠慮なく言ってくれて構わない」
そう言い、最後に頭を下げた。
相田は目の前の姿に、何も言えなかった。
何故自分なのかと彼に問えば、王女と親しくしている事に触れてくるだろう。そして自分の性格を理解した上で断れないよう話を運び、外堀を埋め、環境を整えての行動。それ位は相田にも分かっていた。
狡猾で、嫌な男、ロデリウス。
相田はやはりこの男を好きになれなかった。
だが、一国の重鎮として国家を憂うる彼の気持ちに偽りはない。それだけは相田は理解し、評価している。
相田は机の上にある麻袋をポケットに入れ、立ち上がった。
「………分かった」
「ありがとう、相田君」
ちなみにとロデリウスが付け加える。
「この話を知っている人物は、僕達二人と陛下のみだ」
使者として赴くリリアは、第十騎士団が潜入捜査をしているという情報だけが知らされている。
相田が小さく頷く。
国王に話を通している所は流石というべきであった。仮に何かが起きても、最後は王が話を合わせる流れが自動的に生まれる。
「早速だが、用意してほしいものがあるんだが」
ここまで来れば多少の無理は通るだろう。相田はロデリウスに自腹では手に入れられない物を注文した。
―――翌日。
ロデリウスの言っていた通り、相田達、第十騎士団は兵舎に集まった。そして隊長のデニスから、カデリア王国の潜入捜査の説明を聞かされる。その後、準備という理由で全員に一日の休暇が与えられ、相田は今日の内にしなければならない事を考えながら城を出た。




