⑥能力の長短
洞窟から出ると、生暖かい風と沈みかけた太陽の鋭い日差しが、相田を迎えるように差し込む。
太陽を背に、近付いてくる馬車がうっすらと見えた。
荷台にはテヌールだけでなく、シリアやザイアスまでもが乗っていた。
「相田君! 大丈夫かい?」
テヌールが真っ先に馬車から降りてきた。
「ええ、何とか………それよりもですね」
相田は心配して一番に馬車から降りてきたテヌールに、今回の訓練の事を含め、思いっきり不満をぶつけた。
――――――――――
「まぁまぁ、無事だったんだから良かったじゃないか」
「結果としてはそうですが―――」
相田の口が渋々尖っていく。
デニスの家に戻っての、遅めの夕食。
文句を言いながらウィンナーを突き刺しては口の中へと頬張っていく相田の愚痴を、デニスは全て受け止めていた。相田も全てを吐き終えたからか、死に物狂いの訓練でさえも、最後には『勘弁してくださいよ』と半ば諦め節の流れに話が落ち着いていく。
「それにしてもだが………少しずつお前の力について分かってきたな」
食事を終えたデニスがテーブルの上で両手の指を組み、やや嬉しそうに相田を褒めた。
あの古城での一件の後、相田は自分の意思である程度の力を発揮出来るようになってきている。
命に関わる危機感、覚悟、想像力による発動だけでなく、自身の実体験や思い込み、自信といった感性が慣れとして定着していけば、より力が発動し易くなる。この仮定が正しければ、相田は魔法を使う毎に、また戦いを重ねる度に強くなる事を意味する。
まるでゲームや漫画で成長していくキャラクターのようだ。
だが、そんな常軌を逸した能力は良い事ばかりでもない。
「思った事が力になるというのも、考えてみると怖いかもしれません」
相田は逆にこの力がマイナスにはたらく可能性がある事に言及した。
意識を集中するあまり、周囲に気を配れない事。そして状態異常の魔法だと気付かなければ無効化できる一方、強い思い込みや視覚で得た情報は、それが自分にも作用してしまう事にも繋がる。それは、毒が入っていなくとも『入っている』と強く思い込む事で自分が死ぬかもしれない。またこの世界では大した魔法でなくとも、派手である程、相田は威力の高い魔法だと思い込み、より大きなダメージを受ける事に繋がる。
相田の仮説に、デニスは顎に手を乗せながら真剣な表情で頷いていた。
「十分にあり得る話だ。確かに便利な反面、課題も大きい」
この弱点は決して小さくはない。
「いっその事、何も考えなければいいんじゃないか?」
「魔法や剣が迫る中、無心でいろって事ですか? それが出来たら苦労しませんよ」
第一、守ろうと考えなければ黒い盾も発動せず、防御すらままならない。
「それもそうだな。がはははははは」
腑に落ちない相田の顔を肴に、デニスは笑いながら残ったビールを一気に飲み干した。




