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①しかし、回り込まれてしまった

「もう勘弁して下さいよ!」

「うるさい! 黙って走らんか!」

 宝箱と分かれ道になっていた通路を走り抜け、そのまま地底湖に続く道を上っていく。

 相田とテヌールの二人は、両手足を大袈裟に振り上げながら逃げ続けるが、十メートル後方では雄たけびを上げながら追る火竜の声と足音が地面を揺らし、空気を響かせてくる。

 幸い、火竜の大きさから相手は狭い通路を全速力で追う事が出来ず、辛うじて距離を詰められずに済んでいた。

 さしずめ、転がる大岩に追いかけられるトレジャーハンターである。


「ち、地底湖に出ます!」

 相田は地底湖に出るや、早速光の粉を落とし、空間全体を照らした。

「しまった、ここはぐるぐる回る必要がっ!」

「いいから早く行くぞ!」

 地底湖の水と道の幅は約十メートル。泳いで次の道に渡る事を繰り返せば、出口に繋がる距離としては最短になるが、泳いでいる間に火竜に追いつかれたら逃げる術がない。

 仕方なく相田達は元来た道を戻るように、円を描きながら走り抜けていった。

 

 遅れて火竜も地底湖に辿り着く。

 火竜は一瞬相田達を見失い、長い首を上へと伸ばして辺りを見回す。

 相田達が円を描きながら走っている以上、火竜の視界に入るのは必然であり、視界に目標が入った火竜は翼を広げ、飛び上がった。

「お前っ! きったねぇぞ!」

 相田が走りながら、ショートカットしてくる火竜に向かって中指を立てる。

「そんな事しておる場合か! 追いつかれるぞい!」

 火竜は相田達の横を風と共に通り過ぎると、一度上昇して高度を取った後、相田達の前にずしんと着地した。


 必死の最中、相田は学んだばかりの知識を思い出す。


「そうだ! テヌールさん、俺には自然と火に対する耐性ができているって言ってましたよね!?」

 もし火竜が名前の通り火を吐く生物だとしても、それを無効化してこの場をやり過ごせるかもしれない。焦りの中で思いついた案としてはかなり良いだろうと、相田がテヌールに確認する。

 だが彼は、急いで首を左右に振る。

「竜が吐く炎は魔法ではなく、純粋に物を燃やしている炎だ。さっきも教えたが、魔法の炎と物を燃やしている炎は?」

「違う!」

「その通り! 正解!」

 授業形式に答えている暇はない。火竜はついに何かを吐き出そうと首をぐるりと回し始めた。


「さらに言うと、相田君は先程の魔物だった木炭を見てしまったから、『この炎を受けると炭になる』という想像力がはたらいて―――」

「テヌールさん! それ以上は言わないでください! それは今一番言ってはいけないヤツです!」

 本当に魔法が使えない魔法使いはお荷物でしかないと相田は涙目になる。だが火竜はそんな二人のコントを見終える義務もなく、ついに口から直径二メートル程の炎を吐き出した。

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