⑦地底湖
さらに先に進むと、松明の炎では部屋を照らしきれないような広い空間に出た。自分達の声が反射しながら方々からエコーがかかり、複数の声が遅れて聞こえてくる。
加えて、気温がさらに下がり、肌寒くなっていく。遠くから聞こえる水滴が落ちる音、松明の炎を反射する揺らぎを見せる地面。相田の五感から、この空間の雰囲気が少しずつ伝わってきた。
「地底湖ですか」
「その通り」
だが、これだけ広いと、どこに向かって進めばいいのか分からない。
相田は地底湖の水際に沿って適当に歩いてみるが、行き止まりの連続で引き返す。かと思えばゆっくりと曲線を描くように進んでいく事を繰り返す。
相田達はついに、自分が向いている方向が分からなくなってしまった。
3Dダンジョンゲームで考えもなしに進んだ結果、方向感覚を失い、街に帰れず、徐々に戦力を削られて全滅する初期パーティの心情を体験する。暗く限られた視界、冷えすぎた空気、そして外界から隔離された無音の空間で唯一聞こえてくる規則的な水の滴る音が、一方的に相田の恐怖心を煽ってくる。
「………どうしましょう」
「どうするのかのぉ」
相田の戸惑いに反して、テヌールは陽気に意地悪く返す。その様子は模範解答を持っている教師が、問題が解けずに悩んでいる生徒の前で楽しそうに待っているのと同等に質の悪い姿だった。
相田は悩んだ末に、ある一つの仮説が浮かび上がる。
「よし………」
松明をテヌールに持ってもらい、相田は頭の中で強い光を出すイメージを形作る。さらに、近くの壁や地面に手をつけ、光がそれらに沿って広がっていく光景を意識した。
壁を触りながら相田は、もう片方の指先から慣れた手つきで火を灯す。そしてそれを握り潰し、手の中で粉々にするように指を波立たせるように動かした。
拳を少しずつ緩めると、指の隙間から光の粒子が地面に落ちていく。
瞬間、地面に落ちた光の粒が増殖するように四方へと広がり、地面から壁、そして天井へと光が覆い、ついには地底湖の底すら明るく照らすように光が這っていった。
小さい頃に見たアニメで、洞窟の中を照らすために光の粉を撒いたロボットの便利な道具を思い出せたのが決め手であった。
照らされた地底湖の道は、まるで迷路のように入り組んでいた。そして、分かれ道と円を描くような道の先、地底湖の中央に位置する場所では、下る為の階段がはっきりと見える。




