②集中と想像の先にあるもの
だが黒い盾は一向に動かず、相田の手の前で黙っている。
「駄目かっ!」
相田は伸脚するように片方の足を伸ばしたまま、そしてもう一方の膝を曲げて咄嗟に前傾姿勢をつくる事で、体勢を低くさせ、三枚の盾に収まるように体を守る。黒き盾に当たったナイフは次々と高い音を立てて弾かれていくが、隠しきれなかった相田の左腕に二本のナイフが刺さった。
「ぐああぁぁ! いってぇ!」
今まで味わった事のない痛みが相田を襲う。これまでの訓練で刃物が掠る事はあったが、体に直接刺さる事はなかった。幸い傷の深さはそれ程でもないが、腕の奥までを紙で切ったような鋭い痛みに加え、動く度に傷口を抉られる激痛に耐えられず、相田は地面に手を付けた。
黒い盾が点滅しながら消え去る。
「まだ、終わってないぞ!」
ザイアスの巨体が相田から太陽の光を奪う。
相田にナイフが刺さっていても、二人は訓練を止める気配がない。
それ所か、ザイアスが相田を叩き潰そうと、これまで以上の迫力で相田の頭上に現れた。彼は先程のシリアと同じく目に力が籠っており、手を抜かずに拳を振り上げている。
まるで重機の先端が自分に迫ってくるようだった。
彼の拳は流血の相田に遠慮する事無く、振り下ろしてきた。
「こ、根性ぉぉぉぉぁっ!」
相田は再び右手をかざして黒い盾を創り出し、ザイアスの剛拳を受け止める。
初めて衝突し合う黒い盾とザイアスの拳は、二人の間に激しい衝撃波を生み出した。
その間に相田はよろりと立ち上って体勢を整える。画用紙程度の厚みしかない薄い盾は、丸太の様に太いザイアスの腕から繰り出した一撃に耐えていた。
「やるねぇ………ならもういっぱぁぁつ!」
地面に両足を付け、腰を落としたザイアスが、もう片方の拳で正拳突きを放つ。
「ぐぬぬぬぬ!」
相田も負けじと、負傷した左手を突き出して黒い盾を支える。
「どうした、相田! そのままじゃ、埒があかないよ!」
ザイアスの両手を盾で押さえている間に、シリアが相田の背後に回り込んだ。
彼女が指で挟んだナイフを振り上げている。
「ふんぬぅぅぅぅっ!!」
両手に力を入れていないと、盾が消えてしまいそうな感覚を相田は捨てきれない。かといって、視線をシリアに向け過ぎると、集中力が切れ、やはり盾が消滅しかねない。
頬が震える厳しい表情の中、相田は自分の足元に落ちているナイフに目を向けた。
「た、試してみるかっ」
相田はザイアスと黒い障壁を睨みながら、その奥に落ちているナイフにも意識を向ける。幸いと言うべきか、ナイフに傷付けられた痛みもあって、ナイフの細かい先端までも意識しやすかった。
次第に落ちていたナイフが振動し始めると、一本、また一本と宙に浮き始める。
黒き盾に細かい亀裂が生じた。
相田の集中力が欠けてきた警告であった。
「同時は………無理、かっ」
相田は黒い盾を体ごと斜めにずらすと、ザイアスの剛腕を受け流すように軸を外す。次に黒い盾を解除させると、集中力の全てをナイフに向け、最終的に三本のナイフを自分の目の前に浮かせる事に成功させた。
時間を止めてナイフを好きなだけ投げられれば良かったが、今の相田には時を止めるという、どこぞの吸血鬼並みの技を再現させる為の想像力と集中力を作り出せなかった。
ならばと相田は、ナイフを投げる人間の動きをイメージに追加し、ナイフの先端をザイアスへと向けた。




