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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第一章 余所者が一人
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⑦帰宅

「戻りました」

「あ、おっかえりー!」

 テーブルを拭き終えたリールが布巾を手にしたまま走り、明るく出迎える。

 ピークとなる昼の時間にはまだ余裕がある。店には隅のテーブルに一人しか客が入っておらず、茶色い外套に動きやすい布の服、しかし長い金髪で美形と、この村では初めて見る顔立ちである。さらに壁には小さなハープのような弦楽器が客の足元に立てかけられていた。

 

―――旅の吟遊詩人。

 

 アイダの脳裏に思いつきやすい単純な言葉が浮かぶ。昼からワインを嗜んでいた金髪の男は、その視線に気付くと目を細めながら愛想よく笑い、手を軽く振ってきた。

 アイダも店の従業員として、反射的に小さく首を下げて応える。



「おう、アイダ君。随分と早かったな」

 厨房からエプロンで手を拭きながら店主のコレードが現れた。リールはアイダから受け取った香草の入った袋を、まるで自分の手柄のようにふんぞり返り、父親に手渡していた。


「おじさん、自分も昼の準備を手伝いますよ。何から手を付ければいいですか?」

 後一時間もすれば店の半分は埋まり始め、正午前には満席になる。そうなれば最後、午後の二回目の鐘が鳴り終えるまでその状態が続く。アイダは足早に階段を駆け上がると自室に入り、腕時計を棚の奥にしまうと、部屋の壁に掛けてあったエプロンを手に取って再び階段を降りた。

 たったそれだけの時間で、テーブルに座っている客は六人に増えていた。アイダは肩を後ろに回して肩甲骨を鳴らすと、気持ちを切り替えて厨房に入る。


「おじさん」

 短く声をかけた。

「そうだな………仕込み云々はもう終わっているから、そのままいつも通りで頼む」

「了解です」

 いつも通り。

 つまり接客、下げ膳、厨房と、不足している所を見極めて手伝ってくれという指示である。

 今日は学校がない為、リールは朝から接客や下げ膳に加わっていた。普段は我儘でいい加減な性格だが、家の手伝いとなると目つきが変わり、大人顔負けの動きを見せてくる。

 しばらく店を回している中、ふとアイダの目にテーブルの隅で座る吟遊詩人が視界に入った。既に店に居座って二時間程度経つが、飲み物と小さな肴以外は注文せず、かといって一曲語る様子もない。

 結局、いついなくなったのかも分からず、夕方になる頃には彼の姿はなかった。

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