序章 ①謁見の間にて
「俺はなぁっ! 好きでこんな城に来てるんじゃぁないんだよっ!」
自分でも驚く程に全身の血液が沸騰し、青年は小さな唾を飛ばしながら堰を切った。
異世界に飛ばされた自分を受け入れてくれた第二の故郷。その村を実験のように焼かれた挙句、戦争とは一切無縁だった村の人達を、人質の様に扱ってまで自分を捕まえに来た事を、青年は忘れなかった。その上、眼前に座る王の態度と横柄な言葉に、これ以上我慢が出来なかった。
青年は両腕を後ろに縛られたままの体で、何とかバランスをとりながら片足ごとに立ち上がると、鼻の根元にしわを寄せ集め、まるで親の仇の様に正面の権力者を睨みつける。
自分の大声を耳に入れ、今まで我慢していた感情が一気に噴き出る。
「命を救われた村を焼かれ、家族の様に接してくれた人達に武器を向けて、『力を貸せ』だぁ!? どんだけ、あんたが偉い人間なのか、王だとか何だが知らねぇが、人として! そう、人間として間違ってんじゃねぇのかっ!? あぁ?」
無駄に波風を断たせないようにと、今まで気を遣ってきたが、もう後の事は考えられなくなっていた。
「くそっ! こんな………縄なんかぁっ!」
両手に縛られた縄を外そうと青年は左右の手首を擦り合わせ、さらには両肩を左右にうねらせるが、きつく結ばれた荒縄はびくともしない。
それどころか、青年は自分の肩や背中に何かが乗り掛かってきた感覚に襲われた。
「くっ!」
左右を見ると、謁見の間に並んでいた者達の間に赤いローブを纏った複数の魔法使いが、両手を青年に向けながら何かの呪文を詠唱していた。恐らく相手の動きを封じる類の魔法なのだろう。青年は自分の両肩や背中が、透明人間に圧されてるかのような感覚を受け続けていた。
「力を貸さぬなら、死んでもらうしかない。我が国の兵を殺めたのだ。死刑は免れぬ」
「ああ、そうかよ! そっちからけしかけておいて………本当に………は、腹が立つ事ばかりだ!」
罵声を浴びせる青年に、赤い絨毯の奥で堂々と座る王。
青年は、決して屈しまいと震える足で一歩を踏み出した。
左右に並ぶ家臣の列からさらに二人の魔法使いが割って入り、呪文が重ねられる。今度は誰かが両足にしがみついているかのような感覚に陥った。
青年は歯を食いしばって重い足を左右に動かし続けた。死ぬ程の重さではないが、数歩進むだけで息が切れ、足腰にも大きな負担がかかっている。