第五話:初めての戦闘(巻き込まれただけ)
「うわあああああ!!」
ゴトゴトゴトゴト!!
猛烈なスピードで馬車が揺れ、俺は車内で転がり続ける。
「やばいやばいやばい!! もうちょっと運転マシにできないの!?」
「そんな余裕ないですうう!!」
御者が半泣きで叫びながら、必死に馬を操っていた。
後ろでは兵士たちが刺客と交戦中。
金属がぶつかる音と叫び声が飛び交い、魔法らしき光も飛んでいる。
やばい、完全に戦場じゃん……!
「俺、戦いたくないんだけど!? なんでこうなるの!?」
このままでは確実に捕まる。
いや、それどころか、最悪……死ぬ!
「……くそっ、仕方ない!!」
俺は馬車の窓から外を覗き、状況を確認した。
刺客は全部で五人。
全員フードで顔を隠していて、武器は剣や短刀。
そして、一人だけ妙にオーラが違う奴がいる。
「……あいつ、絶対リーダーだろ」
立ち振る舞いが他の刺客と違う。冷静に戦況を見て、仲間に指示を出している。
まずい。このままだと確実に追いつかれる!
何か、何か手は——
「おい、御者!」
「は、はい!?」
「この道、どこに続いてる!?」
「えっと、三キロ先に吊り橋があります!」
「よし、それだ! 吊り橋まで全力で突っ走れ!」
「えええ!? そんなことしたら危ないですよ!?」
「もう危ないんだよ!! 今さらだ!!」
俺の必死の叫びに、御者は観念したのか「了解!」と叫び、手綱をさらに強く引いた。
バゴォン!!
さらに速度を増す馬車。
後ろの刺客たちが焦り始める。
「追え! 奴を逃がすな!」
「くそっ……!」
兵士たちも奮闘しているが、相手は手練れだ。
このままでは追いつかれるのは時間の問題。
だが、俺には作戦があった。
「……よし、あとちょっとで吊り橋か」
道の先には、岩壁の間に架かる長くて細い吊り橋が見えてきた。
狙い通りだ!
「御者! 橋を渡ったら、すぐに縄を切れ!!」
「え!? それって……!?」
「追っ手を振り切るんだよ!! いいからやれ!!」
御者は青ざめつつも頷く。
そして——
「渡り切るぞ!!」
馬車が吊り橋に突入する。
木の板が軋み、ロープが揺れる。
俺は一瞬目を閉じた。
頼む、間に合え!!
そして——
「今だ!! 縄を切れ!!」
御者が叫びながら、持っていたナイフで吊り橋のロープを切断!
バシンッ!!!
「うわあああああ!!」
刺客たちが橋の中央で止まり、崩れ落ちる橋を見て呆然としていた。
「……やった……?」
俺は馬車の中で崩れ落ちた。
「逃げ切った……のか?」
御者が放心した声でつぶやく。
「やったあああああ!!!」
思わず、俺は叫んでいた。
初めての異世界戦闘(巻き込まれただけ)。
だが、俺は勝ったのだ!!
……いや、逃げただけだけど。
(第五話・完)