第二話:異世界転生、即職質。そして即連行
「……砂?」
目が覚めた俺は、まず手に触れる感触を確かめた。
ザラザラしている。
しかも暑い。
「……え、ここどこ?」
辺りを見回すと、一面の砂漠が広がっていた。
空は青く、太陽がギラギラと照りつけている。風が吹けば砂が舞い、遠くに蜃気楼がゆらめいていた。
「なんでこんな過酷な環境に放り込まれてんの!?」
異世界に転生したのはいいとして、初手砂漠はハードモードすぎるだろ!?
普通、こういうのって王城とか、せめて村の片隅とかじゃないのか?
「くそっ、神々め……!」
俺が座り込んで悪態をついていると、遠くから何かが近づいてくるのが見えた。
馬だ。
それも、何頭も。
「おっ、これは助かるか?」
ラクダじゃなくて馬ってことは、人間の文明圏の可能性が高い。
もしかして、俺を迎えに来てくれたのか?
「おーい!」
手を振ってみると、先頭の男が俺を睨みつけた。
「おい、お前! 何者だ!」
……あれ?
「えっと、通りすがりの……旅人?」
自分でも意味がわからない返答をしてしまった。
「こんな砂漠のど真ん中にか? どうやって来た?」
「えっと……寝てたら、気づいたらここに……?」
「……怪しい。捕らえろ!」
「いやいやいや! 早いって!」
次の瞬間、俺は屈強な兵士たちに囲まれていた。
異世界転生、即職質。そして即拘束
「お前、どこの国の者だ?」
「いや、だからそれが……説明しづらいというか……」
「名は?」
「相川直人 です」
「妙な名前だな」
それ、俺の世界では普通なんだけど……っていうか、この流れ、完全に尋問じゃん!
俺は馬に乗せられ、縄で縛られたまま兵士たちの隊列の中心に置かれた。
「いや、あの、俺、怪しくないっすよ?」
「黙れ」
「えぇ……」
こんなのありかよ。
転生して最初に話す相手が物騒な軍人って、どういう運命だ?
「ここはどこです?」
「サルディア王国領、カル・バザル砂漠 だ」
「さ、サルディア……?」
聞いたことねぇ国だな……まぁ、異世界なんだから当たり前か。
「貴様、もしかして帝国のスパイか?」
「待て待て待て! 俺、違いますって!」
俺が慌てて首を振ると、兵士たちは疑いの目を向けたままだった。
「あのなぁ……俺、本当にただの迷い人なんですよ。助けてくれてもいいじゃないですか」
「なら証拠を出せ」
証拠って言われても、俺の持ち物は……
スーツ(砂まみれ)
ネクタイ(ほどけかけ)
革靴(砂漠に合わない)
……どう見ても異世界の人間じゃないな、俺。
兵士たちはますます疑惑の眼差しを向けてきた。
「お前、服装が奇妙だな」
「……いや、これが俺の世界の正装でして……」
「貴族か?」
「いや、庶民です」
「なら何故そんなきちんとした服を?」
「……労働です」
「労働?」
「……社畜 ってやつです」
俺がため息混じりにそう言うと、兵士たちは顔を見合わせた。
「しゃちく……?」
「……あー、なんというか、すごく……苦しい生き方のことです」
「ほう、ならば我々と同じだな!」
「いや、絶対違うでしょ」
意外にも兵士たちは爆笑した。
異世界に来ても、労働の苦しみは万国共通らしい。
……まぁ、笑ってくれたのはいいとして、俺、いつ解放されるんですか?
「とにかく、国に連れていく。身元がはっきりするまで、牢屋だ」
「いや、ちょっと待てって!!」
異世界転生——俺は平穏に暮らしたいだけなのに、いきなり犯罪者扱い!?
どうやら俺の望む静かな生活は、夢のまた夢のようだ——。
(第二話・完)