7・騎士様と二人②
「それでは神子様、お部屋へとご案内いたします」
「はぁ……よろしくお願いします」
こちらです、と先導して歩き始めたジェラルドのすぐ後ろを歩きながら、私は彼の横顔をこっそり盗み見た。
隙のない、キリリとした顔立ちだ。
はっきり言って、イケメン。
まごうことなき、イケメンだ。
どことなく育ちの良さそうな感じもするし、あと神殿騎士って言っていたから多分腕っぷしも強いよね。
しかも、背が高い。めちゃくちゃ高い。
近くで見上げることになったら、確実に私の首が折れる。
私、148cmなんですけど。下手をしたらそこらの小学生より低い。
わー、すごい。この人完璧じゃん。これがスパダリってやつ?
だけど、このジェラルドさんとやら。時折笑いはするものの、どことなく近寄りにくく感じる。
出会って一時間も経っていないから、どうしてもイメージだけになるけど。
私のそんな気持ちなど知らない様子のジェラルドは、不思議そうに私の姿を見ていた。
「神子様は不思議な方ですね。お名前もそうですが、まとわれているお召し物も見たことがありません」
「……それはそうでしょうね」
だって異世界から来たんだもん。
この建物やジェラルドの身につけているものからして、私のいた現代日本のものとは全く違うことは明らかだ。
神殿内の壁に掛けられているのは蝋燭で、見慣れた電気を使う製品は現状見当たらない。
この様子なら、スマホもパソコンもテレビも期待はできないだろう。
そういえば、この世界に来るまでに持っていたはずの学生カバンがない。
あの頭のおかしい神様とぶつかった時に、うっかり路上に落としてしまったのかもしれない。
カバンの中にスマホやら財布やらを入れていたから今の私は無一文ということになる。
取り止めもなく考える私に、ジェラルドはなぜかにこりと微笑みかけてきた。
「ですが、アオイ様というお名前も、不思議なお召し物も、あなたによく似合っております」
「……っ」
気取った様子もなく、ジェラルドがさらりとそんな言葉を口にする。
近寄りにくいと感じるのに。
それなのにこの騎士様は、急にどきりとすることを言ってくるからそうにも調子が狂う。
手にキスとか。お姫様抱っことか。
さらっと気負わずに格好良いことをやってのける。
はっ! まさかあれか⁉︎
まさかこの騎士様、天然タラシ⁉︎
衝撃の事実かもしれないものに思い当たった私は、思わず足を止めた。
「どうしました? 何か気になるものでもありましたか?」
「……なんでもありません」
不思議そうにこちらを振り返って様子をうかがってくるジェラルドに、私はひきつった笑みを向けることしかできなかった。
再び、用意されている私の部屋とやらに向かって歩みを進める。
「それにしてもこの神殿、広いですね……」
先ほどまでいた水場のある部屋は、どうやら地下だったらしい。
チラとジェラルドから聞いた話では、あの地下の祭壇で神官がルーチェ様(つまりあの頭の可哀想な神様)に祈りを捧げているそうだ。
その部屋を出て、階段を上り……。現在は赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていた。
窓からは西日が差し込んでいて、今が夕刻なのだとようやく気づく。
私の感覚ではついさっきまで朝だったから、少し違和感を感じてしまう。
「ええ。ここには俺たち神殿騎士も暮らしていますから」
そりゃ広そうだ。私が納得しているとジェラルドは足を止めた。
どうやら目的の場所についたらしい。
「こちらが、神子様にご用意させていただいた一室です」