63・悪天候
エルミナさんとお茶会をした日からさらに二日が経った。
この二日間、やけに天気が悪い。
二日前の夜から降り出した雨が、一向に止む気配を見せないのだ。
私は神殿の廊下から外を眺めながら、ジェラルドに尋ねた。
「ねぇ、ジェラルド。この国って雨が多いの?」
「いえ……。ルーチェ様の御加護のおかげで、天候も気候も安定しているはずです」
ジェラルドもこの雨を訝しんでいるようだった。
何せ、降り方が異常だ。
バケツをひっくり返したような大雨が、この二日間降り注いでいる。
「ですが……この振り方は困りましたね……。このままでは、街に浸水被害が出るかもしれません」
ジェラルドは顎に手を当てて、眉根を寄せて雨を見つめていた。
この世界に来たばかりの頃、ジェラルドにこの国について説明してもらったことを思い出す。
この国は、小国な上に水災害に見舞われることが多いが、あの神様の加護があるから人命に対する被害は少ないのだと。
でももし、神様の力が奪われていたらどうなるのだろう。
神様は、私が神殿に戻ってきた夜以降、私の夢にも現れない。
神様の話を聞く限りでは、力の大半は既に国王様の元。残っているのは私の体に溜めたもののみ。
その上、国王様の方が「神の力に乗っ取られ」ようとしているなら?
そもそもこの雨は、もしかしてあの神様の力が奪われている影響だったりするのだろうか。
――なんか……嫌な予感がする。
考えれば考えるほど、不安になってくる。
ジェラルドはそんな私の肩をそっと抱き寄せた。
「アオイ様、大丈夫ですか」
「……うん」
そんな時だ。廊下の向こう側から、ニコラスが慌ただしくこちらへ向かってきたのは。
「神子様、ジェラルド! 大変です!」
「どっ、どうしたの!?」
普段落ち着いているニコラスが、見たことがないほど焦った様子で駆けてくる。
外に出ていたのだろうか。ニコラスの緩やかなブロンドが濡れている。
ニコラスは私たちのそばまでやってくると、膝に手を当てて荒い息を吐いた。
「国王陛下が……。陛下がお一人で城から居なくなられたそうです……!」
「ええ!?」
一体どういうこと!?
途切れ途切れに放たれたニコラスの衝撃的な言葉に、私もジェラルドも目を見開いた。
国王様は、本来不可侵である神子を誘拐(?)した件で、臣下の方々から事情確認されているところだと聞いていた。
しかし、国王様の体調が芳しくないせいであまり進んでいないのだと。
そもそも国王様は、口から血を吐くような状態のはずだ。こんな雨の中、城から一人でいなくなるなんて無茶だ。心配でしかない。
「兵士たちが城中探したそうですが見当たらず……。街の捜索を始めるそうで、神殿騎士にも協力要請がありました。ジェラルド、指示の方をよろしくお願いします」
「はっ、承知いたしました」
「ジェラルド……っ」
何だか、胸騒ぎがする。
思わずジェラルドの服の裾を掴むと、ジェラルドは私を安心させるようににこりと微笑んだ。
「大丈夫です。騎士たちに指示を出したらあなたの元へ戻ってきます。俺は、アオイ様を守ることが務めですから」
私は部屋にいるようにと言って、ジェラルドもニコラスもばたばたと駆けていく。
おそらく、騎士たちに国王様捜索の指示を出しに行くのだろう。
私は二人の姿を見送りながら、高まっていく不安な気持ちを抑えるように、胸の前でぎゅっと拳を握りしめた。