52・強制連行
『特にめぼしいものは見当たらないなぁ……』
「そうね……」
一通り部屋の中を調べてみたが何も収穫はなく、私と神様はソファでぐったりとしていた。
この部屋に残されて、既に数時間が経過した。
夕方になってきたせいか、窓の外は薄暗くなりつつある。
今日はもう、このままここで過ごすしかないのだろうか。
早く神殿に帰りたいのだけど。
「帰ってエミールくんのご飯食べたい……」
私がこの世界で安心して過ごせるのは神殿だけだ。
ジェラルドの庇護があって、エミールくんの美味しいご飯があって、助言をしてくれるニコラスがいる。
あの温かい空間。
『帰りたいのは僕も同感だ』
神様と一緒にため息をついていると、
「入るぞ」
外から声がかけられると共に、扉の鍵が開けられる音がした。
すぐに国王様が入ってくる。
今度は何を言い出してくるんだろう。
私は緊張と警戒で身を強ばらせた。
「準備が出来たからついてこい」
「へ……っ?」
国王様は、何を考えているのか分からない無表情のままそう告げてくる。
準備? 一体なんの準備ができたというのか。
私と神様は思わず顔を見合せてしまった。
「おい、どこを見ている」
神様の力を奪ってはいるが、神様の姿は国王様にも見えていないらしい。
誰もいない(ように見えている)ほうを見ている私に、国王様は不審そうな顔をしていた。
「いいから来いと言っている」
国王様は苛立ちをあらわにこちらへ近づいてくると、ぐいと私の腕を引っ張った。
そのまま部屋の外へ向かっていく。
神様も慌てた様子で私の後ろを着いてきていた。
「ど、どこへ行くんですか……っ?」
「私の部屋だ。道具が揃っているからな」
道具……?
有無を言わさぬ様子の国王様に引っ張られながら、私はふと廊下を見回した。
あれ……。なんだかこの屋敷、変だ。
屋敷に、私たち以外の人の気配がない気がする。
ここがどこかは分からないが、国王様がいる場所なのだ。警備の人なり、使用人なり、他の人がいてもおかしくないだろうに。
「他の人は居ないんですか?」
疑問を率直に尋ねると、少しの間を開けて国王様は答えてくれた。
「……いない。誰も信用出来ないからな」
「でも、神殿ではお付きの人がいませんでした?」
「人目があるから連れていただけだ。国王が外を一人歩きする訳にはいかないからな」
この国王様、基本的に質問には答えてくれるらしい。
冷たい人だと思っていただけに意外ではある。
しばらく真っ直ぐ歩いて、国王様は突き当たりの扉の前で立ち止まった。
どうやら目的地に着いたらしい。
そのまま国王様の部屋とやらに連れ込まれる。
部屋の中は私が先程までいた一室より広いものの、ほとんど同じ造りのようだった。
違うとすれば、奥にある机の上やソファの上に雑多に物が置かれているということくらいだろう。
分厚い本や、様々な色をしたくすんだ石ころ、水晶玉に、アクセサリー類。様々な物が部屋にある。
そのどれもから、なんだか嫌な気配が漂っていた。
『気をつけた方がいい……。ここにあるのは呪具ばかりだ』
神様が私のすぐ側を漂いながら、私に忠告してくる。
さっき、国王様はここなら「道具が揃っている」と言っていた。……嫌な予感がする。
部屋の中央には、深紅の絨毯に魔法陣と思われる模様が白で描かれ、その真ん中に国王様の杖が置かれていた。
「とりあえず、ここでお前の力を抜き出させてもらう」
そういうと、国王様は私の腕をさらに強くぐいと引っ張った。
向かっているのは、魔法陣の上――?