表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/72

51・呪いの元凶


「な、なんなの、あの国王様は……」


 国王様が部屋を出ていったあと、ソファに脱力してしまった。

 彼の言い分は、自分勝手だ。

 神様を呪い、力を奪ったのも、私がさらわれているのも、全てジェラルドに勝つためということか?


 ジェラルドは国王様について「あまり仲は良くないんです」と言っていたが、そんな可愛いレベルではない。

 下手をしなくても国王様は、ジェラルドのことを憎んでいるんじゃないだろうか。それくらいに兄弟仲がこじれていると感じた……。

 なまじ、長年屈折した思いを抱え続けていたせいもあるのだろう。


『いやぁ……随分とこじれた兄弟仲だなぁ』


 突如聞こえた、呑気な声。

 はっと顔を上げると、目の前に神様がふわりと浮いていた。

 近くで見た神様の姿は、やはりいつもよりも透けていて、揺らいでいるようだった。


「神様!?」


 思わず声を上げてしまって、私はすぐに口元を押さえ込んだ。

 何事か、と国王様がこの部屋に舞い戻って来ては困る。


「どうして肝心な時に助けてくれなかったの……! 話が違うじゃない!」


 私は声を潜めて神様に言った。

 この神様、「遠慮せずに呼びたまえ」だの「僕も君を守ろう」だの言ってくれていた気がするのだけど、あれは嘘だったのか。

 責めるように見つめる私に、神様は「ぐっ」と言葉に詰まっているようだった。


「し、仕方ないだろう! あの王が持っていた杖の気配にやられたんだ!」


「……杖?」


 確かに国王様が持っていた杖からは変な気配がした。それに、国王様自身からも。


『君の世界にはなかったのだろうが、この世界にはまじないというものが存在する』


 神様の言葉に、私は以前ニコラスやジェラルドと話したことを思い出していた。


 まじないとは、道具を使った呪詛のようなもの。

 術者の命を使うために、この国では禁忌とされている、と。


 確かジェラルドが、そう言っていたはずだ。


『よく覚えていたな』


 私の思考を読んだ神様が、驚いた様子で褒めてくれる。

 しかし、すぐに神様は表情を引き締めた。


『あの杖は呪具だ。あの国王は、杖を媒介に僕を呪ったんだ』


「……っ」


 神様本人の口から放たれたその事実に、どうしても衝撃を受けてしまう。

 国を守護している神様を、国を統治すべき国王が私情で呪うなど……。

 そんなことがあっていいのか。


「私は、どうしたらいい……?」


 気持ちとしては、神様を助けたいのだ。

 神様のことを助けたいと、ずっと願ってきた。

 だが、まじないとやらは私の世界にないし、対処法が分からない。

 あの杖を壊したらいいのだろうか……?


『いや……。一旦逃げた方がいいだろう。あの国王は、長くはもたない』


 ――長くはもたない?


 言葉の意味を捉えられなくて、私は眉をひそめてしまう。神様はどこか考えるような視線をしていた。


『まじないは、術者の命を使って行うものだ。国王は命の大半を使って僕を呪っている。……それに、国王は人の子だ。神の力は人の身に余る。そのうちに、力に乗っ取られるだろう』


 ――えーと、難しくてよく分からないけど……。


「このままここにいてもまずい?」


 理解しきれないまま尋ねると、神様はふむと顎に手を当てて考える素振りを見せた。


『……まぁ、そうだな。騎士もいない、まじないへの対処法もない、僕も君を助けられるか分からない。この状況で国王に挑むのは無謀ではないか?』


「確かに……」


 ジェラルドもいない、ニコラスもいない、土地勘もないし、知らない屋敷の中。この状況、私にとって圧倒的に不利だ。

 いくら神様の後ろ盾があるとはいえあてにはならないし、ただの16の小娘が国王陛下に対してどうにかできるとは思えない。


「でも、逃げるっていってもどうやって?」


 私は立ち上がると、扉の方へ近づいた。

 ドアノブを握って捻ってみるが、やはり外側から鍵をかけられているらしい。

 扉は開きそうにもなかった。


「ドアは開かないし、ここ二階だよ?」


 今度は窓の方へ近づいてみる。

 私の身長の二倍はあるだろう、背が高くて大きな窓ガラスだ。

 はめ殺し窓なのか、鍵も見当たらない。


『そのうち騎士が迎えに来るだろう。だがまぁ、いろいろ部屋を探ってみるのも悪くない』


「それはそうだね」


 私は神様の提案に頷くと、部屋の中を片っ端から漁ってみることにした。

 立派なお屋敷の一室だ。もしかしたら隠し扉の一つや二つ、あるかもしれない。


『隠し部屋があったら確かに面白いなぁ。今度ニコラスの夢に出て、作るよう言ってみようか』


「やめて」


 信心深いニコラスなら、神様がなにか頼めば嬉々として動きそうで怖い。


 神様とそんな会話しながら、私は自分の心が落ち着いていくのを感じていた。

 この変な神様でも、やはりいるだけで違う。

 あのまま一人だったら、どうしたらいいか分からなかった。

 神様が現れてくれて良かった、と心の片隅で思う。


『ふふん、そうだろう? 僕の存在に感謝するといい!』


「ちょ、人の心勝手に読まないでよ!」


 神様の読心の力は、考えただけで伝わるから便利ではあるが……少し恥ずかしいものがある。


 神様と軽口を叩きながら、私は窓の様子をもう一度確認した。

 窓の外はどんよりとした灰色の雲が広がっている。

 もしかしたら、雨でも降るかもしれない。

 


 

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ