48・兄
「お、お兄さん……!?」
思わず、ジェラルドと国王様のお顔を見比べてしまう。
髪色こそ違えど、確かに二人の顔立ちは似ていた。
国王陛下が兄ということは、ジェラルドも王族ということになるのか。
腹違いとはいえ国王様の弟なのだから、王弟ということ……?
それは、あまりにもすとんと納得できてしまうものだった。
確かに驚きはした。
だけど、エミールくんから聞いたジェラルドとの出会いの話や、伯爵令嬢という婚約者候補がいたということ、色々な情報を合わせて考えたら、納得できてしまうものがある。
「黙っていて申し訳ありません……。あまり言いたくなくて」
ジェラルドが私に視線を向けて悲しそうに言うと、国王様がふんと鼻を鳴らした。
「ほう、そうか。出来の悪い私が義兄であるなど、恥ずかしくて言いたくないということか?」
「はぁ……。誰もそんなことは言っていないでしょう」
言葉を返すジェラルドは、深くため息を吐き出す。
それを見て、私は花畑でジェラルドとお兄さんの話を聞いたことを思い出した。仲が悪い、って言ってたっけ。
確かにお兄さんの態度はジェラルドに対して好戦的だと感じる。敵対視しているような。
ジェラルドは辟易しているように見受けられた。
「おい誰か、この無礼な弟を外に出せ。顔を見るのも嫌だ」
国王様のお付きの人が後ろから姿を現す。
どうやら様子を伺っていたらしかった。
「はっ、しかし……」
ここは神殿であり、王城では無い。
お付きの人は、困ったように国王様とジェラルド、そしてニコラスに視線をさ迷わせる。
「俺はルーチェ神から直々にアオイ様の護衛の任を仰せつかった騎士だ。何故アオイ様から離れなければならないのです」
私を背に庇うような状態のジェラルドは、国王様に向かってはっきりと告げた。
――か、かっこいい。
思わずきゅんとしてしまうが、それどころな状況ではない。私はどうにか気持ちを引きしめた。
「いいから早くつまみだせ!」
国王様とジェラルドの間に何があったのかは、私には分からない。
だけど、このままでは話にならないだろう。
私はジェラルドの服の裾をくいと引っ張った。
「ジェラルド、少し部屋を出てもらってていい? このままじゃお話出来ないし……」
「ですが……」
私の提案に、ジェラルドは渋る様子を見せる。
私はジェラルドを安心させるようににこりと笑った。
「大丈夫だよ。何かあったらすぐに呼ぶから」
正直言えば、少し怖い。
ジェラルドに対してとても喧嘩腰な人だ。
国王様が美しい顔立ちであることが、余計に冷たさを引き立たせている。
だけどニコラスは、国王様が私に会いに来ることを「糸口になるかも」と言っていた。
神様の力を取り戻すことに、何か繋がるかもしれない。
私がじっとジェラルドを見つめると、ジェラルドは渋々と言った様子で引き下がってくれた。
「……分かりました。アオイ様、俺は扉の外にいます。何かあればすぐにお呼びください」
「ありがとう」
ジェラルドが部屋を出ていく。
残されたのは、私とニコラス。そして、国王様とお付きの人。