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47・国王陛下の来訪


 エルミナさんかジェラルドの元婚約者候補だと知った日から三日。

 今日は国王陛下が神殿にやってくる日だ。


 あの日から三日間。

 エルミナさんには「考えないで」と言われたが、考えない日はなかった。

 ジェラルドはいつも通りに接してくれるが、私がいつも通りにできない。


 苦しくて苦しくてたまらない。

 夢に出てきた神様は慰めに、綺麗な夢や楽しい夢を見せてはくれたが、胸のもやもやとしたものは消えなかった。


 ――私、帰るべきだって思ってるのに。


 いずれ元の世界に帰るなら。片思いのままでいいなら。

 ジェラルドの元婚約者候補がエルミナさんだろうがそうでなかろうが、気にする必要なんてない。


 それなのに気にしてしまうのは……。


「アオイ様、そう緊張なさらなくても大丈夫ですよ」


 そう優しく声をかけてくれるジェラルドのことが、やっぱり好きだからなのだろう。


「あ、ありがとう」


 神殿にある客間で、私とジェラルドは待機していた。

 隣にいるジェラルドが居心地悪そうにしているのが気にかかるが……。

 とりあえず、ニコラスが私たちのいるこの部屋に国王様を連れてくるという手筈になっている。


 ――そういえば、国王陛下ってどんな方なんだろう。


 私が物語に出てくるような威厳溢れるおじさんをイメージしていると、客間の扉が開かれた。

 

「お前が神子か」


 ――え? 誰?


 聞き馴染みのない声に振り向くと、金髪に紺色の瞳の青年が立っていた。鼻筋が通っていて服装からは王子様のような印象を受ける。

 青年は、ジェラルドより歳上に見えた。20代後半くらいだろうか。

 なんだか、圧倒されるようなオーラを放っているように感じられた。顔がいいせいか、迫力がすごい。

 威厳がある、と言えばいいのだろうか。


 ――ううん、それだけじゃなくて。


 一見彼は普通だ。だけど直感的に、気配がおかしいような、そんな気がした。

 

 その青年は、ゆったりとした足取りでこちらの方へ近づいてくる。


「ふうん……。なるほどな?」


 青年は、冷たい濃紺の瞳で私のことを見下ろしてきた。

 ジェラルドと同じ瞳の色だ。なのに、受ける印象はまったく違うように思う。

 その光のない瞳に、私の背筋がぞっと冷える。


 ――なに、この人……。


「アオイ様に、俺の許可なく近寄らないでいただきたい」


 私と青年の間に、ジェラルドが体を滑らせるようにして割って入った。

 ジェラルドの背中に隠れてしまって青年の姿は見えなくなる。

 だが、二人から緊迫な雰囲気が漂っているのは伝わってきた。


 ――え、なに。この二人なんなの?


 雰囲気からでしか分からないが、ジェラルドとこの青年は仲というか相性が良くないような気がする。

 

「陛下、お待ちください……!」


 緊張した部屋の空気は、慌てて部屋に入ってきたニコラスによって破られた。


 ――は?


「ここ、国王陛下……!?」


 私は驚きのあまりジェラルドの背中から顔を出して、青年の姿をまじまじと見てしまった。

 言われてよくよく見てみれば、確かに青年は身なりの良い格好をしている。

 手に持っている短い杖には高そうな赤い宝石が嵌められているし、身につけている衣服には細かく刺繍が入っているようだった。


 だが、イメージしていた国王とかけ離れた青年の姿に私は驚きを隠せない。

 

「ああ、いかにも。即位してまだ半年と経っていないがな」


 青年はくるりと杖を回すと、ふっと口元を引き上げて笑った。


「私の名は、ヴィレム・フォン・バッケンバッハ。このルチアナ聖王国の国王だ。よろしくな、神子殿?」

 

 ――……バッケンバッハ?


 すごく、聞き覚えがある気がする。

 それも、私の身近にいる人から聞いた覚えがある。


「……俺の、腹違いの兄です」


 ジェラルドに視線を向けると、私が言いたいことを察したのか、とても居心地が悪そうに教えてくれた。


 

 

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