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46・神子様はもやもやする


「アオイちゃんに会いたくてちょっと寄っちゃった」


 エルミナさんは茶目っ気たっぷりに笑う。

 麗しの美女の登場に、鍛錬場に残っていた騎士団員が皆見惚れていた。

 こんな、スタイルも良くて話すと可愛らしい美女、視線を奪われて当然だろう。


「エルミナさん、こんにちは」


 ――あれ、なんかほかの団員の人たちがざわついてる?

 

「お、おい、あの人ってあれだろ」


「あ、ああ……団長の……」


 ふと周囲に視線を向けると、私たちの方へ向かって歩いてくるエルミナさんを見つめながら、騎士団員たちが何やらひそひそと話しているようだった。

 

 ……ジェラルドの? 団員の人たちは二人の関係についてなにか知っているのだろうか。

 

「ねぇ、一緒にお散歩でもしない?」


 団員の人たちの話が気になりはするが、エルミナさんに微笑まれるとどうでも良くなってしまった。

 

「それはもちろんです……!」


 

 ◇◇◇◇◇◇

 


 青空の下、エルミナさんと神殿の庭を歩く。

 ジェラルドは、私たちから少し離れてついてきていた。

 中庭には騎士団によって手入れされているらしく、色々な種類の花が咲き誇っていた。

 さきほど水やりがされたばかりのようで、葉や花びらに残った水滴が日の光を浴びてきらきらと輝いている。


 私は隣を歩くエルミナさんをちらりと見た。

 周囲の景色と相まって、まるで絵画のようだ。


 ――こんな美女とお散歩とか……! 眼福すぎる!


「ねぇ、アオイちゃん」

 

 私が幸福な気持ちに浸っていると、エルミナさんが体をこちらに近づけてこそりと耳打ちするように話しかけてきた。


「ジェラルド様とのデートは楽しかった?」


「えっ!」


 なんで知っているのだろう。

 と一瞬思ったけれど、よくよく考えればジェラルドに花畑の場所を教えてくれたのはエルミナさんだ。

 知っていて当然なのだが、まさか直球で聞かれるとは思っていなくて慌ててしまう。

 しかも後ろにはジェラルドもいる。


「……そ、れはまぁ」


 エルミナさんと同じように声を潜めて言うと、エルミナさんは嬉しそうににまにまとしていた。


「よかったぁ」


 まるで自分ごとのように嬉しそうにしてくれるものだから、私まで心が温かくなってしまう。


「……花畑、教えてくれてありがとうございました。すごく綺麗でした」


「気に入ったのなら、自由に使ってちょうだい」


 なんだか、久々にガールズトークをしている気分だ。

 エルミナさんとは年が離れているけど、女友だちと話しているようで落ち着く。

 エルミナさんと楽しく会話しながら中庭を歩いていると、再びちらちらとこちらに向けられる視線を感じた。

 庭の手入れをしていたらしい騎士団員たちだ。


「あれ、リース家のご令嬢じゃないか?」


「いやぁ……美しいなぁ……」


「俺、声かけたいんだけど、いいかなぁ」


「ばっか、お前やめとけって、エルミナ様ってジェラルド団長の元婚約者候補だって話だろ? お前なんか相手にされるわけないから」


「うぅぅ、だよなぁ……」


 ――え。


 ジェラルドの、元婚約者候補……?

 エルミナさんが?

 彼らの言葉にひどく衝撃を受けてしまって、私はつい足を止めてしまう。


「おい、お前たち! 無駄話をしている暇があるなら次の仕事をしろ!」


「す、すみません、団長!!」


 ジェラルドに叱られた団員たちは、慌てた様子で走り去っていく。


「アオイちゃん、あの団員の人たちの話は気にしないでちょうだい。私とジェラルド様はなんでもないから」


 エルミナさんが、気遣うようにそっと私の背を撫でてくれる。

 私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。


「そんな青ざめた顔をして……。あなた、ジェラルド様のことが好きなのね」


「……っ!」


 エルミナさんにひそりと言われて、私ははっと顔を上げた。ジェラルドに聞かれてはいないだろうか。


「大丈夫よ。ジェラルド様は向こうにいるし……あの人はこの手のことにてんで疎いから」


 くすりと苦笑しながらエルミナさんは言った。

 確かにジェラルドは団員たちが去っていくのを見送っていて、私たちの方を見ていなかった。


「わたし、は……」


「今度、二人っきりでお茶会でもしましょ? その時私とジェラルド様のことを話すから」


 動揺してしまったせいか、上手く言葉を発せない。

 どうにか頷きを返すと、エルミナさんはほっとした様子で微笑んだ。


「今日は一旦帰るわ。また来るから、それまでこのことは考えないで。私は、あなたとジェラルド様を応援したいの」


 エルミナさんはそう言うとジェラルドのそばに早足で行き、短く何かを話した。

 それから私の方へ手を振ると、エルミナさんは帰って行く。


「それじゃ、またね」


 私がエルミナさんに手を振り返すと、私の近くへジェラルドが戻ってきた。


「アオイ様……? 顔色があまりよくありませんが、大丈夫ですか? 」


「だ、大丈夫……!」


 ジェラルドに心配そうに顔をのぞき込まれて、私は慌てて距離をとった。

 しかし、ジェラルドは納得がいかなかったらしい。私の顔を見て、難しそうな表情をしている。


「日差しが強かったせいもありますかね……。少し涼しいところで休憩しましょうか。」


「……わかった」


 確かに今日はとても天気がいい。

 まだ午前中とはいえ、日差しは確かに強かった。


 日陰へと移動しながら、私は考える。

 エルミナさんに「このことは考えないで」と言われても、どうしても考えてしまうのだ。


 ――私みたいな小娘より、エルミナさんの方がジェラルドには似合ってる。


 エルミナさんがジェラルドの元婚約者候補と聞いて、私は驚くと同時に納得してしまった。

 ジェラルドは私のことを好きだと言ってくれたけれど、私は彼に不釣り合いすぎる。


 ――ああ、嫌だ。


 私は、自分の心にもやもやとした澱んだ感情が居座っているのを感じていた。

 

 

 

 

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