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5・騎士様と神官様と神様と私


 私が『神子様』であることになんの疑いももっていないらしい男性二人は、きらきらとした眼差しをこちらに向けてくる。


 ここで私が神子じゃないと否定したところで何になるだろう。

 下手をしたらある種当然の扱いである不審者とされて、身の危険が増すだけじゃないか?

 

 そうなったら、ブロンドの男性が青年に、私を切り殺せと命じるかもしれない。だってあの青年、剣を身につけているし……。

 ブロンドの男性は穏やかそうに見えるが、穏やかそうな見た目だからといって優しい人だとは限らないだろう。

 さすがに私も自分より体格のいい男性二人から逃げ切れる自信はない。

 それでなくとも、よく分からない自称神様だけでもう既に手一杯だ。これ以上の厄介事は極力避けたい。


 となると……。

 笑って誤魔化すしかない……。


「あ、はははは……」


 もはや乾いた笑いしか出ないし、顔がひきつっている自覚はあるがこれが精一杯だ。勘弁して。


「面白い神子様ですね」


 ブロンドの男性は私の様子を見てにこにこと微笑んだ。

 あ、馬鹿にしてる? それとも天然か?

 まぁ、どちらでも構わない。大丈夫だ。私の態度がおかしなことなど、私が一番よく分かっている。


「はい、少しおかしなところがまた可愛らしいです」


 青年は目を細めてうんうんと頷く。

 あ、今おかしいって言った!

 自分で思うのは平気でも、精悍(せいかん)な顔つきのイケメンにおかしいと言われるのはさすがに傷つくわ!


「あの……、ところでここは……?」


 自分よりも年上の男性から微笑ましそうに見られることがいたたまれなくて、私は話を変えるべく二人に尋ねた。

 というか、本当にここどこ?

 当然ながら、私にはこんな石造りの神殿に心当たりなんてない。

 そして、この二人は一体誰なんだろう。


「ああ! 申し訳ありません!」


 途端にブロンドの男性が申し訳なさそうに眉尻を下げた。

 キリリと真面目な顔をしている青年よりも、こちらの男性の方が幾分とっつきやすそうだ。


「ここは、ルチアナ聖王国。そして今いるこの場所は、この世界の創世神であるルーチェ様を祀っている神殿です」


 どうやら本当にここは神殿だったらしい。

 そして神殿に石像があるということはあの自称神様とやら、本当に神様だったのか……。

 ていうか、あんな神様を祀っているこの国、大丈夫か……?


『失礼な!』


 思わず不安を抱いた私に、即座に反発してくる自称ではなくなった神様。

 あー、無視ね、無視無視。


「私はニコラス・エッカート。この神殿で神官をしております」


 ニコラスさんは人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら、私に向けて軽く会釈をしてくれた。そして、隣の青年に少し視線を向ける。


「こちらは神殿騎士の一人、ジェラルド」


 ニコラスさんに紹介された青年が、一歩こちらに進み出てきた。

 それっぽいなとは思っていたが、この青年、本当に騎士だったのか。


「初めまして、神子様。俺は、ジェラルド・フォン・バッケンバッハと申します」


 おおう……すごい名前だな……。

 なんというか、名前がとてもきらびやかだ。

 単なるイメージだが。


「あ、私は、立花葵です……」


 日本人として普通の名前のはずだが、こんな派手(?)な名前の人の後に名乗るとしょぼく思えてきた……。

 目の前のジェラルドさんは、噛み締めるように私の名前を何度も呟く。


「タチバナ、アオイ……。タチバナアオイ様……。さすが異世界から来られた方ですね。響きが独特だ」


 うん、でしょうね。

 私だって、ニコラスさんにしてもジェラルドさんにしても、名前の響きが外人さんにしか思えないから。なぜか、バリバリ日本語で会話が通じているのが不思議ではあるけど。

 

「では、タチバナアオイ様とお呼びいたしますね」


 いや、フルネームで様付け⁉︎

 恥ずかしい!


「あ、葵が下の名前なんで、できればそっちだけでお願いします。ジェラルドさん……」


 なんかもう、非現実すぎてどうでも良くなってきた。

 もうこれ、夢でしょ?

 むしろ夢じゃないと受け入れきれない。


 半ばやけ気味に訂正すると、ジェラルドさんはなるほどと頷いた。


「わかりました。アオイ様ですね」


 やっぱやめて、恥ずかしい。

 こんなイケメンに様付けされる経験なんて、当然ながら生まれて初めてでどうにもこうにもいたたまれない。


「神殿騎士の名にかけて、アオイ様の御身は俺が必ずお守りいたします」


 ジェラルドさんはスッとその場に跪く。そして私の手をすくい上げると……私の手の甲にキスを落とした。


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