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44・ニコラスとジェラルドの関係


 私がルチアナ聖王国に落とされて、10日目。

 神殿の長い廊下を歩きながら、私ははぁとため息をついた。


 未だに元の世界に帰れる見込みがないことも問題なのだが。

 それよりも現在の悩みの種は、歩く私の後ろをいつも通りついてくる騎士団長様だった。


 ジェラルドから忠誠を捧げられ告白(?)をされたのは、つい昨日のことだ。

 結局あの後、私がジェラルドに返事が出来ないままでいるところに、人が通りかかった。

 どうやらあの森を抜けた先には別の街があるらしい。そこへ向かう商人が荷馬車を引きながら通って森の道を通って行った。

 その物音に、ジェラルドも私も話を続けにくくなり、帰ることになったのだ。


 だから、告白の返事もうやむやのまま。

 私はジェラルドと気まずいまま、今日に至る。


 なかったことにしたい、とかでは無い。

 好意を向けてもらえたことは、とても嬉しい。

 だけど、こちらは元の世界に帰らないと行けない身だ。


 ――どうしたらいいのか分からない。


 一日二日で答えが見つかるわけもなく。

 とりあえず二人きりになるのは気まずいので、極力人が多い場所に行きたいところだ。

 

 今は昼下がりの時間。廊下の窓からは、澄み渡った空が見える。

 気分転換に外の空気でも吸いに行こうか……。

 私がエントランスに向かっていると、


「おや、神子様にジェラルド」


「あれ、ニコラス?」

 

 ニコラスが神殿に戻ってきたところだったのか、ばったりと出くわした。


 確かニコラスは、朝食を一緒に食べたあと慌ただしく仕事へ向かっていったはずだ。

 いつもなら、そのまま夜まで顔を合わすことがないのに今日は珍しい。


「今日はもうお仕事終わったんですか?」


 私が近くに駆け寄って尋ねると、ニコラスはええと頷いた。


「先程まで王城の方へ行っていまして。城のシェフからケーキをいただいたんですが、良ければご一緒しませんか?」


 そう言って、ニコラスは手に持っていた白い箱を見せてくれる。

 

 ケーキ……!


 反射的に目を輝かせてしまった私を見て、ニコラスも、ジェラルドもくすくすと笑った。


「神子様は分かりやすくて良いですね、ジェラルド」


「はい、本当に可愛らしい」


 二人の声が優しいから、私は顔を上げられずに白い床を見るしかなかった。


 

 ◇◇◇◇◇◇



 ニコラスに連れられてやってきたのは、本やら書類やらが雑多に置かれている一室だった。


「散らかっていてすみません。ソファへどうぞ」


 ニコラスは食器を探すためか奥へ向かっていく。

 どうやらここはニコラスの部屋らしい。

 初めて訪れたが、まさに学者の部屋といった感じだ。

 部屋の中央奥にある仕事机の上は、雪崩を起こしそうなほど書類が山積みにされている。


「あ、ありがとう」


 私が言われた通りにソファへ座ると、程なくしてトレーを持って戻ってきた。

 ローテーブルの上に、三人分のケーキとお茶が並べられる。

 

「ニコラス様、俺の分は結構で――」


「大丈夫ですよ、このケーキは甘さ控えめだと聞いておりますから。ジェラルドもお座りなさい」


 ジェラルドの言葉を遮ってニコラスが笑顔で言う。

 反論を認めないニコラスの笑みに、ジェラルドも私の隣へ大人しく腰掛けた。


 ――ジェラルドって、ニコラスには頭が上がらないのかな。


 上司と部下という関係だからだろうか。

 だが、それにしては距離が近いような?


「どうぞ、召し上がってください」

 

「い、いただきます」


 疑問は感じるものの、ニコラスに勧められたので、ありがたくケーキをいただくことにした。


「あ、おいしい……」


 見た目は普通の生クリームでコーティングされたケーキだ。

 だけど、なんだか花のような香りがする。初めて食べたが、なかなかおいしい。


 そういえば、三人で何かを食べるなんて、これが初めてだ。

 ジェラルドはいつも私の後ろに控えているから。


「久しぶりにこのケーキを食べました」


 ちらりとジェラルドに視線を向けると、ジェラルドはなんだか懐かしそうにケーキを食べていた。


「それはよかった。シェフもほかの使用人も、あなたに会いたがっていましたよ。たまには帰ってみてはいかがです」


「……それは、遠慮しておきます」


 ――?


 なんだか、二人はよく分からない会話をしている。

 もぐもぐとケーキを咀嚼しながら、私は首を捻った。


「……二人って、なにか特別な関係だったりする?」


 やっぱり、ジェラルドとニコラスはただの上司と部下のようには思えない。

 私が聞くと、ニコラスはからりとした笑顔で言った。

 

「ああ、ジェラルドは私の元教え子なんですよ」


「教え子っ!?」


 驚きすぎて、少し声が大きくなってしまった。

 ついニコラスとジェラルドを見比べてしまう。

 ジェラルドははぁと深く息を吐き出して、いたたまれないような様子だった。


「昔、ジェラルドの家庭教師もしていましてね。その時からの付き合いです」

 

 上司と部下であり、先生と教え子という関係でもあったのか……。道理でジェラルドがニコラスに頭が上がらないはずだ。


 私が納得していると、ニコラスは何かを思い出したようで「そういえば」と声を上げた。


「先程、王城で陛下とお会いしたのですが……」


 この話の流れでどうして陛下を思い出したのか、と一瞬疑問に思ったが、ニコラスの次の言葉にそんな疑問なんてどうでも良くなってしまった。


「神子様にお会いする日程の調整がついたそうで、5日後に陛下が来られるそうですよ」


 そういえばそんな話があったっけ!

 すっかり忘れていた!


 

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