41・神様心、神子知らず
「ほー、騎士とデートか。楽しんでくるんだぞ」
しばらくぶりに夢の中であった神様は、開口一番にそう言った。
「……なんで知ってるの」
私はまだ何も言っていないはずだ。
空中をたゆたう神様をじとっと見上げると、神様はいつも通りえへんと偉そうにしている。
「気づかなかったのか? 僕は君のそばにずっといたんだが……」
神様が私のそばにいた?
全く気づかなかった。
それなら姿を見せてくれればよかったのに。
「で、出られるような雰囲気ではなかっただろう……!」
どことなく赤い顔で焦る神様を見て、私は嫌なことに気づいてしまった。
ずっと私のそばにいたのなら、もしかして見られてしまったのだろうか。
私が、ジェラルドに抱きしめられたり、キスをされたりしているところを。
「み、見てないぞ! 空気を読んで、すぐに姿を消したからな!」
私の思考を読んだ神様が、先回りするように叫ぶ。
「み、見てなくても把握してる時点で嫌だわ! やめてよね!」
「僕だって好きで把握しているんじゃないさ! 君と同化しているせいだ!」
「それだって私にぶつかったことが原因なんだから、回り回ってあんたのせいでしょ!」
どうにもこの神様とは、子どもっぽい言い争いをしてしまう。
だけど、神様とのこの時間も、なんだか悪い気がしなくなっているのもまた事実だった。
「そういえば、しばらく神様の姿を見てなかったのはそのせいなの?」
私はふと、思ったことがあって神様に聞いてみることにした。
神様と最後に話したのは、私が街散策から帰った時だろうか。
落ち込んでいた私の前にふらりと現れ、慰めてくれた。
あの日以降、神様は現実に出てくることも、夢の中に現れることもなかった。
「もちろん空気を読んで姿を消していた、という理由もあるが……」
神様はそこで一度言葉を止める。
不思議に思って見上げれば、神様は困ったような表情を浮かべていた。
「人の前に姿を現すというのは、君が思っている以上に力を使うのだよ」
「ふうん?」
そういうものなのか。
神様の事情というのは私には分からない。
「君がこの世界に囚われる前に返してあげたいからね。極力、力を温存して貯めているのさ」
「……囚われる?」
どういう意味だろう、と私は首を傾げる。
神様は優しい瞳で私を見つめた。
「君には帰るべき世界があるだろう。……君が帰りたくないと思わされてしまう前に、平和な世界へ返してあげたいんだよ」
神様の言うことは難しくて、私には意味がよく分からない。
だけど、神様が私のことを思ってくれているであろうことは言葉から伝わってきていた。
「まぁ、それでも君がピンチの時は現れるから、遠慮せずに呼びたまえ」
「それは……ありがとう」
神様は、私の目の前でふわりと手を動かす。
すると、それだけで周囲の景色が変わった。
濃紺に星がきらめく世界から、ピンクとオレンジの混ざったような幻想的な空の世界へ。
ふわふわと雲が浮いていて、まるで絵本の中にいるみたい。
……なんだか温かくて、心が落ち着く。
「現実では、調べ物やらなんやらで落ち着かないだろう。この世界では、ゆっくりと過ごすがいい」
「わ……っ」
神様は私のそばに猫足のソファを出してくれる。
至れり尽くせりだ。
「さすが神様……、なんでも出せるのね」
「当然だろう。ここは僕の空間だからな。すべて思い通りさ!」
私に気を使っているのか、それともジェラルドとのあれやこれやを見かけてしまったことへの罪滅ぼしなのか(多分後者の気がする)。
なんだかんだ言いながらも、この神様は私に優しい。
私は神様の好意に甘えて、ソファでゆっくりと過ごすことにした。