表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/72

38・特別


「神子様……」


 静かなジェラルドの声と、背中を撫でてくる優しい手のひらに、私の心が次第に落ち着いていく。

 涙がようやくおさまって、はたと今の状況に気がついた。


 部屋の中。

 二人きり。

 ……抱きしめられているっっ⁉︎


 今更といえば今更。

 だけど、一度気づいてしまえば、鼓動が加速していくのを止められなかった。

 燃えるように顔が熱い。


「ご、ごめんね……っ、迷惑ばっかりかけて!」


 私は距離をとろうと、ジェラルドの胸を押した。

 だが、びくともしない。


 ――って、逞しいな……!


 一見細身に見えるのにジェラルドの胸は厚く、布越しでも鍛えられていることがわかる。

 当然のことなのだけれど、私の体とは全く違う。


 ――……男の人、なんだ。


 ふと、そう感じて。

 私の胸が、どくんと跳ねた。


「俺は、一度も神子様のことを迷惑だなんて思った事はありませんよ」


「でも……」


 ジェラルドが迷惑だと思っていなくても、私が気になってしまう。

 私にできることは少なくても、誰かの迷惑にはなりたくないのだ。

 特に、ジェラルドの迷惑には。


 ――これじゃあまるで、ジェラルドのことが特別みたい。


 そこまで考えて、私は一つの答えを見つけてしまった。


 ――私、ジェラルドのことが好きなんだ。


「俺がそう思っていなくても、神子様が『迷惑』だと感じるなら……。いくらでも俺に、迷惑をかけて下さっていいのですよ」


 ジェラルドは優しい。

 きっと彼は、相手が私でなくてもこうなのではないだろうか。


「神子様は、俺にとって……特別な方ですから」


「……っ」


 私の考えを否定するようなジェラルドの言葉に、驚きのあまり、至近距離にいるジェラルドを見上げた。

 ジェラルドの濃紺の瞳の奥が揺れているように感じられて、私は声を出すことができない。


 ――私が、特別……?


 そんなことはありえない、と。

 即座に脳内で否定する。

 私なんて、ただの平凡な小娘だ。ジェラルドに特別に思ってもらえるような何かなんて、ありはしないのに。


 私が特別なのではない。

 きっとジェラルドは、私が異世界から突然やってきた()()()な存在だから優しくしてくれるだけで。同情してくれているだけで。仕事上、私と過ごしてばかりだから情が沸いただけだ。


「俺が……どんなことからも、あなたをお守りいたします。……アオイ様」


 それなのに、ジェラルドが私の名前を呼ぶから。

 馬鹿な私は誤解してしまいそうになる。


「……っジェラルド」


 名前を呼ばれただけで、顔が熱くなる。

 赤くなっているであろう顔を、ジェラルドに見られないように背けたいのに。

 ジェラルドの濃紺の瞳にとらわれて、私は彼の瞳から目をそらすことができなかった。


「神子様……ご無礼をお許しください」


 静かにジェラルドがそう言って、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 そうして、ジェラルドの唇がそっと私の額に触れた。


 ――え……。


 何が起きたのかすぐには理解できなくて、私は呆然としてしまう。

 ジェラルドは、焦がれるような目をして私を見ている。ような気がした。


「俺に、あまり隙を見せないでください……。付けいってしまいたくなる」


「……っ」


 ……気がした、ではない。

 ジェラルドが真剣な顔で言うから、向けられる好意が嘘ではないのだと理解してしまう。


 ――私、馬鹿だ。


 いずれ私は元の世界に帰る。

 こんな異世界で恋に落ちたって、どうにもならないというのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ