4・神子様(笑)
「あ、あの……」
ええと、誰か。この際あの自称神様でも誰でもいい。この状況の説明を求めます。
見知らぬ場所に落とされて、これまた見知らぬ男性に跪かれるって一体どんな状況?
はっきり言って、私は彼らからしたら不審者・不法侵入者同然だと思うから、捕まえられるというのはまぁわかる。
だけど、神子様とか何とか呼ばれて跪かれるのはさすがに理解不能だ。
とか何とか頭の中で考えていたら、剣を腰に下げた青年がおもむろに立ち上がった。
ひぃぃ! 頼むからその剣だけは抜かないで!!
「少々、失礼致します」
「ひゃっ!」
なになになに!?
ふわりと身体が宙に浮く。
ってまさか、これが噂のお姫様抱っこですか!?
青年は私を軽々と横抱きに抱えあげると、そのまま元来た道を戻るように浅瀬を突っ切った。
私を気遣ってか、青年はゆっくりとした足取りで歩いていく。
やがてブロンドの男のもとまでたどり着くと、青年は私を床へ降ろした。
お姫様抱っこ、怖い……。
この青年のおかげか安定感はあったものの、怖いものは怖い。やっぱり人間、地に足をつけて生きていくべきだわ……。うん。
「神子様、ようこそおいでくださいました」
ほっと息を吐いていたら、目の前の男性二人がいきなりそれぞれの胸に片手を当てて頭を下げてきた。私に向かって。
思わずぎょっとしてしまう。
「あ、あの、神子様……って?」
神子様って一体なにごとなんだ。
完全にファンタジー世界じゃないか、これ。
完全に人違いでしょ、これ。
『神子様』などといった特別な呼称をいただくにしては、私の容姿は普通すぎて釣り合わない。
そんな神々しい呼び名が相応しいのは麗しき超絶美女であって、平々凡々な童顔低身長に対して『神子様』は違和感しかないと思うんだ。うん。
「昨夜、ルーチェ様が夢枕に立たれ、私に告げられました。ルーチェ様が選ばれた娘が異世界より現れ、この国に祝福を与えると……」
「は……?」
ブロンドの男性が放った言葉に、私はあんぐりと口を開けてしまう。
国に祝福を与える、だって?
そんな話は聞いていない。
話がなんか勝手に大きくなっていませんか?
私は我慢できずに背後の石像を振り返った。
「ちょっと、どういうこと……?」
『いや、だからな?』
「誰が、国に祝福を与える、ですって……?」
キラキラとした眼差しをこちらに向けてくる二人には聞こえないように声を潜める。
石像を囲むこの浅瀬がなければ、たとえ石像であっても自称神様に詰め寄って、胸ぐらでも掴んでいただろう。
『い、いやいや、立派な立場があった方が便利だろう? 嘘も方便だ!』
「おいおい神様……」
それ、騙してることになりません?
私は呆れて頭を押えた。
『僕が君を元の世界に帰せるようになるまで、神子としてこの世界でつくろぐといい! むしろこの僕に感謝してくれてもいいんだぞ!?』
「はぁ!? 何言ってんの!? 元はと言えばあなたが――」
神様とグダグダ言い合いをしていると、後ろからぱちぱちと拍手が聞こえてきた。
あ、嫌な予感。
「素晴らしい……! 神子様はルーチェ様と会話ができるのですね!」
「ええ、本当に素晴らしい」
恐る恐る振り返ると、ブロンドの男性が感動した、というふうに琥珀の双眸を輝かせてこちらを見ていた。
青みがかった黒髪の青年も、うんうんと頷いている。
……まずい。
これは、二人の私に対する神子様認定が加速している気がする。
お願いだからちょっと待って。