33・予想外に高位な来客予定
ジェラルドと街散策に行った日から三日が経った。
私がこのルチアナ聖王国に落とされてから7日が経過しようとしている。
帰れる見込みは未だにないまま、神様の力を奪う相手についても分からないままに、時間が過ぎていた。
――どうしたものか……。
私がパンもどきをもぐもぐと咀嚼しながら考えていると……。
「神子様……。難しいお顔をされておりますが、今日の朝食はお口に合いませんか?」
考え事をしていて顔が落ち込んでいたのだろう。目の前で同じように朝食を食べていたニコラスが心配そうに声をかけてきた。
それは誤解だ。エミールくんの作ってくれるご飯はいつも美味しい。
私は慌てて手をパタパタと振った。
「へっ? あ、ああ、違うの、ちょっと考え事をしていただけで……!」
「いつも能天気なお前でも、そんなふうに考え込むことがあるんだな」
紅茶もどきを私たちの机の上に置いてくれながら、エミールくんが口を挟んでくる。
確かに脳天気なのは否定できないけど、失礼な!
「わ、私だって悩みくらいあるもん!」
「ルーチェ神のことですよね」
ジェラルドが、エミールくんを叱りながら会話に入ってきた。
この四人で過ごす時間が、私がこの世界で一番落ち着く瞬間かもしれない。
不安なことがあっても、この人たちと話していると落ち着く。
「うん、書庫で色々本を読んだりはしてるんだけど……」
街散策の日、落ち込みはしたが悩んでいても仕方ないから、私は次の日から文献を読み漁ることを再開した。
街へはさすがに少し怖くて出られていないけれど……。
「何を調べているのか知らないが、ぽっと出のお前がちょっと調べて分かることなら、ニコラス様がもうご存知だろ?」
エミールくんがぶすっとした顔で言った。
一見きつく思えるその言葉。だけど、私にはそれがエミールくんなりの慰めに聞こえた。
言葉も態度もつんつんしているけれど、エミールくんは優しい。
「ああ、それでしたら……少し糸口が見えるかもしれませんよ?」
「えっ?」
ニコラスの思いもよらなかった発言に、私は動きを止めた。
糸口が見えるかもしれない?
「神子様がご降臨されたことを国王陛下にご報告致しましたら、一度お会いしたいとのことで。近々、陛下がお見えになるそうです」
「へー、それはそれは……」
へー、国王陛下が……。
「……って、はい!?」
ニコラスがあまりにもさらりと告げてくるものだから、こちらまでさらりと流してしまうところだった。
「う、げほ……っ」
飲み込みかけていたパンもどきが喉につかえるかと思った。
軽く咳き込んでしまった私の背を、ジェラルドがさすってくれる。
「み、神子様、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……」
心配そうな声をかけてくるジェラルドに、どうにか返事を返す。
だが、違う意味でまったく大丈夫ではなかった。
「こ、国王陛下だなんて……ど、どうしたら……っ」
国王陛下がお見えになる? しかも、私に会いたいって!?
国王陛下だなんて明らかに身分の高い人にあったことなどないから、話を聞いただけでも緊張してしまう。
軽くパニック状態に陥って目が回りそうな私に、ジェラルドが後ろから穏やかな声をかけてきた。
「そんなに動揺なさらなくても大丈夫ですよ、神子様。陛下は、他人には厳しい方ではありませんから」
それって自分には厳しい人ってこと?
ジェラルドは安心させるように言ってくるが、それは安心できる材料にはならない気がする。
「って、もしかしてジェラルド、会ったことあるの?」
ジェラルドの口ぶりからは、そんなニュアンスが感じられた。
神殿騎士団の団長だし、国王陛下にお会いしたことがあってもおかしくはない気はするけれど。
「……ええ、ありますよ」
ジェラルドはなんだか複雑そうな顔をしていた。
とても気まずそう。
その様子からは、国王と騎士団長という仕事上の関係以上の何かがあるように感じられて、私はふと首を捻った。
私の考えすぎだろうか。