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25・騎士様と街観光②


 ジェラルドの言葉通り、街へはすぐに到着した。体感時間的には、10分もかからないくらいだろうか。

 徐々に道の周りに家が見え始め、気がつけば商店街になっていた。


「す、すごい……」


 人通りもすごいが、周囲の建物がすごい。

 まるで絵本の中にでも迷い込んだかのようだ。

 遊園地の中のような造りの建物が、通りの向こうの先まで続いている。なんだかメルヘンチック。

 立ち並ぶ店はカラフルな屋根を張り出し、売り子の威勢のいい声が街に響く。

 

 神様の翻訳のおかげとはいえ、日本語で普通に会話が成立していたから油断していた。

 ここは、日本じゃない。異世界だ。こうやって街を歩く人々を見てようやく実感する。

 

 街を歩く人たちは皆、現代日本の日常生活ではなかなか見慣れない装束に身を包んでいた。

 ここでの民族衣装か流行りかなにかなのだろうか。

 女性は、膝丈かロングのワンピース姿が多い。その上にエプロンを付けている人もチラホラ見かける。

 男性は、ベストや帽子を身につけていたり、杖を持っていたりと、紳士然とした格好が多い印象を受けた。


「ここは城下町ということもあって、このルチアナ聖王国の中で最も賑わっているんですよ」


 ジェラルドが通りの先を手で示す。

 遠くの方に、ぼんやりと高い尖塔を持つお城のシルエットが見えた。

 なるほど、お膝元ってことか。

 ところで。


「……あの、さ。ジェラルド」


「はい?」


 私の声にジェラルドが振り返った。


「なんか……見られてる、気がするんだけど……」


 気のせいではなく。

 街に入ってからずっと、街人からの視線が容赦なく私に突き刺さっている。


「きっと神子様の可憐さに皆、目を離すことができないのですよ」


「いやいやいや!」


 そんなわけないから!

 本当に、この騎士様は何を言っているのだろう。

 冗談かと一瞬思ったけど、ジェラルドの顔は大真面目だった。


「多分、この服のせいだよね……!?」


 多分も何もないだろう。身支度をしている時に危惧した通りだ。

 十中八九、私が着ている制服のせい。

 すれ違う人や、遠巻きにしてこちらを見ている人が、小声で私の服装について話しているのが聞こえる。


「何なのかしら……あの娘。神殿騎士様と一緒にいるけど」

 

「見たことねぇな、どこの国のものだ?」

 

「旅芸人かなにかじゃないか?」

 

「いやいや、この国を混乱に陥れるためにやってきた、敵かもしれないぜ」

 

「でも小さいし、非力そうよ?」

 

「いやいや、そう見せかけてるだけさ」


 まずい。

 推測が勝手にひとり歩きして、私をこの国の敵に仕立てあげてる……!

 しかも、何気に身長のこといじられてるし! うるさいうるさい! 私が小さいことは私が一番よく分かってる!

 

 私と同じように街の人たちの会話を耳にしたジェラルドは、不快そうに顔を顰めた。


「神子様を侮辱するとは……なんと無礼な……!」


 キッと周囲の人々を睨みつけている。

 おいいい! 待って! 街の人の反応は妥当だから!


「神子様、少々失礼いたします」


 ジェラルドは私の身を隠すように腕を広げた。

 そっと肩を引き寄せられ、ジェラルドの腕の下にすっぽりと収まってしまう。


「って、ええ!?」


 腕の下っ!?

 ジェラルドの身体にぴたりとくっついている状態に、私は思わずどぎまぎしてしまう。


「気が利かず、申し訳ありません。今は黙って、俺についてきて頂けますか」


「ちょ、ちょっと……!」


 ジェラルドは人目を避けるように、私を連れて路地裏に入った。

 華やかな表通りから少し道を逸れただけで、薄暗くなる。

 さすが地元民とでも言うべきか。ジェラルドは入り組んだ路地を迷いなく進んでいく。

 やがて目的地にたどり着いたのか、ジェラルドは店の入口と思われる扉の前で立ち止まった。

 扉の横には、読めないはずの文字で書かれた看板が置かれ、店先には同じ文字が書かれた旗が風で揺れていた。


 ――『服飾店・エリース』?


 神様による翻訳機能のおかげで文字の意味は理解できたが……。


「ここは……?」


「大丈夫。俺の知り合いの店ですから」


 私を安心させるようにジェラルドは微笑んだ。

 ジェラルドが扉を押し開けると、扉に付けられたベルが入店を知らせるようにカラランと鳴る。

 中からすぐに、スレンダーでスタイルのいい美女が姿を現した。

 

うわわっ……! 綺麗な人……!

 

 女性の長い金糸のような髪はとても艶やかで、宝石のような翡翠の瞳は妖艶に輝く。

 美女はジェラルドを見て、驚いた様子で口元に手をやった。


「あら、あらあらあら! ジェラルド様じゃない。久しぶりねぇ、どうしたの?」


「お久しぶりです、エルミナ嬢。いきなりで申し訳ないのですが、この方に似合う服をいくつか見繕って頂けませんか?」


「それは構わないけど……。エルミナ『嬢』はやめて頂戴」


 美女……もといエルミナさんは、ジェラルドからふいと目を背けると、私に視線を向けた。

 じいーと、上から下まで舐めるように眺められる。

 

 ――ひいいいいい……!

 

 相手は、私とはまったく別世界(文字通り!)の美女だ。

 緊張してしまう。


「可愛い子ねぇ……。あなたにもようやく恋人が出来たのね」


 エルミナさんはしみじみと呟きながら、ジェラルドの肩に手を置いた。


「違いますよ」


 ジェラルドは不愉快そうにエルミナさんの手を払い除ける。

 なんてことを!! エルミナさんのような美女の手を払うなんて信じられない!!


「俺が神子様の恋人だなんて……。恐れおおいです」


「へぇ……。あなたもそんな顔、出来たのね」


 ……?

 

 ジェラルドはどんな顔をしているのだろう。

 エルミナさんの言葉にジェラルドの顔を見上げたけれど、ジェラルドはもういつもどおりの表情を浮かべていた。


 

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