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24・騎士様と街観光①


 そうしてやってきた翌日。

 夢の中で神様と言い合いやら追いかけっこやらをしたせいで、寝たはずなのにあまり疲れが取れた気がしない。


 窓の外では昇り始めた太陽が顔を出し、部屋の中を眩しく照らしていた。

 どうしてもいつもの習慣で、学校に行く時間には目が覚めてしまう。


 私はベッド脇に置かれている時計に視線を向けた。

 この異世界にも時計のようなものは存在しているらしい。ただ、表記が見慣れた数字じゃないし、ローマ数字でさえないし、見たことがないものだけれど。

 針の位置と太陽の様子を信じるなら、午前7時を過ぎたところだろう。


 私は豪華なドレッサーの前に立つと、軽く身だしなみを整えた。

 他に着るものもないし、制服を着ざるを得ないのが複雑だ。


 ――やっぱり、目立つかなぁ……。


 神殿内で着ている分には何も言われないのだが、さすがに街中に行くのは目立ってしまうだろうか?

 ジェラルドと最初に会った時、私の服装を見て「見たことない」って言っていたことを思い出した。……不安だ。


 あまりにも街の人が私の服装を見て後ろ指を指すようだったら、一旦ここへ戻ってこよう。

 私が考えながら手ぐしで髪を整えていると、扉がノックされた。


「神子様、俺です。お迎えにあがりました」



 ◇◇◇◇◇◇



 エミールくんお手製の今日の朝ごはんは、魚のバター焼きみたいなものとサラダだった。

 ただし、なんの魚なのかとか、なんの野菜なのかは分からない。私の知っているものと似ているんだけど、何かが違うのだ。

 

 美味しくないわけではない。味は普通に美味しいのだけど。

 言うなれば、鏡文字を見た時みたいな感じだ。

 似ていて読めなくはないけど、何か違うみたいな。


 朝食を食べたあと、外へと続く扉へと案内してくれるジェラルドのすぐ後ろを歩きながら、私は首を捻った。

  

「こちらがエントランスホールになります」


 神殿内の場所は一通り案内してもらっていたつもりだったが、エントランスホールにはまだ訪れたことがなかった。

 大方、外に出る必要性がなかったためだろう。


 目の前の空間に、私は目を見開いた。

 

「わわっ、ひろーい!」


 エントランスホールは、私たちの立つ廊下を中心に半円を描くように広がる広い空間だった。

 天井まで続く窓にはめられたステンドグラスが太陽の光を受けて、白い大理石の床へとカラフルな色を反射させている。

 目の前には、木製の重厚な扉が静かに口を閉ざしていた。


「広いですか?」


 私の驚く様子に、ジェラルドが不思議そうに声を上げる。

 

「え、広いでしょ?」


 この神殿は、何でもかんでも造りが一回り以上大きいと思う。

 現にこのエントランスホールには、私の家の玄関が10個以上余裕で収まりそうだ。

 ここが広くなければ、広いのはどこだというのだろう。


「どこもこんなものですよ」


「ええ……?」


 ジェラルドは、神殿で暮らしているせいで感覚が麻痺しているのではないだろうか。

 この規模が普通だとは、にわかには信じられない。

 もし、この国の家が全部、ここの神殿並みの大きさだったらどうしよう。カルチャーショックを受ける自信がある。


 ジェラルドは両開きの扉を開けると、私の方を振り返った。

 穏やかな外の日差しが、エントランスへと入ってくる。


「さぁ、神子様。どうぞこちらへ」


「う、うん」


 ジェラルドの呼びかけに、私はそろそろと神殿の外へ一歩足を踏み出した。


「……っ」


 さああ、と優しい風が私の頬を撫でる。

 陽の光を、吹き抜ける風を、全身で感じることができる。

 今まで生きてきた16年間で、これほどまでに外へ出ることを嬉しく思うのは初めてだ。しばらく神殿内に引きこもっていたせいだろうか。


「どうかしましたか?」


「ううん、何でも!」


 扉の外側には、神殿騎士が二人立っていた。

 ピシッと敬礼される。


「神子様、団長! いってらっしゃいませ!」


 ジェラルドはともかく、私は敬礼されるほど偉くないのでどうしても戸惑ってしまう。

 私は騎士二人に小さく頭を下げると、先導して半歩先を歩くジェラルドを追いかけた。


「そういえば、街って遠いの?」


 尋ねると、ジェラルドは私を振り返る。


「近いですよ。少々歩きますが……。申し訳ありません、馬の方がよろしかったでしょうか?」


「う、馬っ!?」


 ジェラルドの発言に、私はぎょっとしてしまった。

 

 それはもしかしなくても、馬に乗って街へ行く選択肢があったということでしょうか!?

 とんでもない!

 私に乗馬経験なんてゼロだ。馬に振り落とされて、地面に落ちる様が目に浮かぶ。

 

「い、いやいや! 徒歩がいいです、ぜひ徒歩で!」


 私がぶんぶんと首を横に振ると、ジェラルドはほっとしたように小さく息を吐く。


「そうですか? なら良かった」


 にこりと微笑むジェラルドに、私はなんとも言えない気持ちで苦笑いを返した。

 

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