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とある騎士団長の独白②(21話・ジェラルド視点)


 神子様はニコラス様とお話されたあと、この国についての書物をご所望された。

 この神殿には、宗教関係の書物はもちろんのこと、建国についての書物も多数収められている。


 俺は神子様を書庫に案内しながら、ちらりと後ろを歩く彼女を盗み見た。


 神子様は本当に、積極的に行動される健気な方だ。この世界の人間ではないというのに、ルチアナ聖王国やルーチェ様のために動いてくださる。

 それにはきっと、危険もついてまわるだろう。

 俺は騎士として、彼女を守らなくてはいけない。

 

 それなのに俺は、自分のことばかり考えてしまうのだ。


 アオイ様のことを、もっと知りたい。

 俺のことを知ってほしいと。


 ――はぁ……。自分を律することもできないとは、騎士団長として有るまじきことだ。


 俺は神子様に気づかれないように、小さくため息を吐き出した。


「こちらが書庫でございます」


 そっと両開きの扉を押し開ける。

 書庫に入ると、古びた紙独特の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。


「うわわっ! すごいたくさんある!」


 神子様は迷路のように置かれた本棚を見て、驚かれたのか黒目がちの瞳を大きく見開いた。

 一つ一つの反応が可愛らしくて、俺はつい彼女の動きを目で追ってしまう。


 神子様は本棚から一冊抜き出すと、ぱらぱらとめくった。読めるのだろうか?

 そういえば、神子様は異世界からこられたというのに、言葉が通じる。やはり『神子様』というくらいだし、何か特別な力でもあるのだろう。


「ねぇ、ジェラルド」


「はい、なんですか?」


「私の他に、神子っていたことあるの?」


「……はい?」


 神子様の視線は本に落ちたまま。

 なぜそんなことを彼女は聞くのだろう?


「この国が建国されて1000年は超えておりますが、今まで神子様のような方が召喚された事例は聞いたことがありませんよ」


 神子様のような存在が過去にいたことなど、伝承でも聞いたことがない。

 ルーチェ様が異世界から人を呼ばれたことなど、神子様が初めてだ。


「そっか。……じゃあ、なんでジェラルドは『神子様』を尊敬しているの?」


 …………は?


 彼女は何を言っているのだろうと、一瞬思考が止まる。

 彼女から見れば、俺はそう見えるのだろうか。

『神子様』という存在を、その名称を、尊敬していると。


 違う。


 俺が尊敬しているのは、神子様――アオイ様だというのに。


「……俺は、『神子様』を尊敬しているのではありませんよ」


 俺の言葉に、神子様が本から視線を上げた。

 神子様の、澄んだ瞳が俺だけに向く。純粋な瞳に、俺の心臓がどきりと跳ねた。


「俺は……アオイ様、あなただから尊敬しているのです」


「……っ」


 俺の気のせいでなければ、神子様の顔が少し赤くなったように思う。

 ほのかに色づく頬が、感情豊かな彼女が、可愛らしくてたまらない。

 もっと、神子様の表情が変わるさまを見てみたい。もっと。もっと。


 ――こんなに自分の感情を制御出来ないのは初めてだ。


 俺は幼少の頃から、どんなことであってもすぐに人並みよりできる(タチ)だった。

 だから、どんなこともつまらなかった。何にも興味をもてない。物事にも、人にも。

 感情は常に凪いでいて、波立つことがない。


 それが今はどうだ。

 神子様の言動一つで、心が揺れる。

 ……生きている心地がする。


 ――もっと……アオイ様の笑顔が見てみたい。


 せっかく異世界から来られたのだ。この世界のことを好きになってもらいたい。


 俺は躊躇いながらも、自分の感情に負けて口を開いた。



「神子様さえ良ければ、なんですけど。俺と、街へ出かけませんか――」

 

 

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