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2・神様殴っていいですか?


「あー……。すまない」


 尻もちをついた状態の私の前に、申し訳なさそうに眉尻を下げる男が一人。


 穴に落とされた私の前に現れたのは、白っぽい青年だった。

 芸能人でもなかなかお目にかかれないほどのものすごい美形の登場に、思わず固まってしまう。


 芸能人レベルで整った目鼻立ちに、まろやかなホワイトブロンドの髪。全てを映すかのような空色の瞳が美しい。

 何より目を引くのは、彼の肌の白さだ。死人のように肌が白い。それこそ透き通る白さだ。


 透き通る、っていうか……本当に透けてない?


 上下左右、永遠に真っ白が続くようなこの空間に溶け込むようにして佇む青年は神秘的ではあるが……。

 

 なんだか、溶けて消えてしまいそうだ。

 なんとなく私はそう思ってしまった。


「えー、と……?」


 とりあえず、その不気味なレベルの美形が私になんの用だろう。ていうかここどこ。

 気がついたら、どこまでも白が続く不思議な空間にいた。目の前の美形も相まって、とてもじゃないけど現実とは思えない。


 じーっと青年に視線を向けて説明を求めると、青年は私が言いたいことを理解してくれたようだった。


「あー……。ここは、世界の狭間ってところかな?」


「……はい?」


 意味がわからない。

 この青年は、寝ぼけているのだろうか。


「僕は、君がいた世界とは違う世界の神様」


「……かみさま」


 やっばり意味がわからない。

 自ら神を称するなんて、この青年の頭は大丈夫だろうか。

 これは、生半可な覚悟で関わってはまずい人種だったかもしれない。


「で、君の世界に遊びに来ていたら、帰り道に僕は君とぶつかった」


 あー、もしかしてさっきの……?

 ぶつかったのはあんたか!


 確かに私は何かにぶつかったけど、まさかそれが自称神様だなんて誰が思うだろう。

 というか、よその世界の神様がふらふら別の世界へ遊びに行っていいのだろうか?

 

「で、その衝撃にうっかり力を使ってしまったらしく、君をここに飛ばしてしまった」


「……な、なんですって?」


 なんだって?

 飛ばしてしまった?

 自称神様とやらが、私をこの真っ白な異空間に?


 ちょっと待て。

 それって帰れるんでしょうね?

 返してくれるんでしょうね?


 自称神様は、私の言いたいことは分かっているとでも言うように、鷹揚(おうよう)に頷いた。


「君の言いたいことはよく分かる。申し訳ない」


 なんだか嫌な予感がする。

 この自称神様、謝りはするがほかの言葉をなかなか言ってくれない。


「えーと、神様さん? 今すぐ私を元の世界に帰して?」


 にっこり。

 私は笑顔で尋ねてみる。


「すまない。無理だ」


 にっこり。

 自称神様、笑顔で切り捨ててきやがった……。


「ど、どうしてくれるのよ!?」


 今日から新学期が始まる予定なのだ。

 だというのに、初日から早々に遅刻。で済むならまだいい。

 無断欠席。下手をしたら長期無断欠席。最悪の場合留年!? 退学……!?

 もはや最悪の事態しか考えられない。


「お、落ち着け……!」


 詰め寄った私に、自称神様は焦った様子で私の肩にぽんぽんと手を置いた。

 落ち着かせたいのだろうが、あいにく無理だ。むしろ逆効果だ。


「これが落ち着いていられますか!」


 神様、一発殴らせて。

 拳を構えた私に鬼気迫るものを感じたのか、自称神様は慌てて言い募った。

 

「ま、待て待て待て! 今は君を元の世界に送り届ける力が足りないだけだ! 時期が来れば必ず元の世界に戻してやる! だから落ち着け!」


「……ホントでしょうね?」


「本当だとも! 僕は嘘はつかない!」

 

 怪しい。

 だが、信じるほかない。

 諦めて息を吐き出した私に、神様はあからさまにほっとした顔をした。


「それまでの間、僕の世界にいるといい。歓迎する」


「僕の世界……?」


 どこにあるというのだろう。その僕の世界とやらは。

 急に穴に落とされて、目の前には自称神様の青年。今ならどんな不可思議なことでも受け入れられそうだ。


 というか、今更だけど私、白昼夢でも見ているんじゃない?

 絶対これ夢でしょ。


「僕の世界は、この空間の真下に存在する。君の世界はこの上だね。つまりここは中間」


「はぁ」


 自称神様はつい、と指先で上やら下やらを示してくれる。

 だが、あいにくここは上下左右真っ白な空間だ。分かりにくいにも程がある。


「上へ引き上げることは難しいが、下へ落とすことは簡単だ」

 

 気の抜けた返事しかできない私を気にした素振りもなく、自称神様はパチンと指を鳴らした。


「え……」


 それと同時に、足元へ違和感が生じる。

 この違和感には既視感があった。

 

 穴だ。足元に、ぽっかりと穴が開いている。


「あんの自称神様! やっぱ一発殴っとくべきだったーー!」


 神様に恨み言を叫んでも時すでに遅し。

 私は為す術なく、再び穴の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

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