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13・お食事は冷めた空気で


 エミールくんは、何度も謝る私を見てようやく機嫌を直してくれたらしい。ジェラルドと何やら短く話すと食堂の奥に向かっていった。

 どうやらエミールくんは調理中だったらしく、カウンターの奥で鍋をかき回しているのが見える。


「エミールがここの食事を作っているんですよ。一番下の見習いが食事係をするという、昔からの決まり事なんです」


「へぇー……」


 エミールくん、料理もできるのか。

 すごいなぁ、と呟いていたら、ジェラルドが「みな経験していることです」とにこやかな笑顔で告げた。


「へっ? じゃあ、ジェラルドが食事を作ってた時もあったの?」


「ええ」


 ジェラルドは私の言葉に頷く。

 だけど、私にはジェラルドが見習いだった時が想像できなかった。なんというか、はじめからこの出来上がったジェラルドの状態だったのではないかと思ってしまう。


「ジェラルド様はなんでも出来るんだ! 馬鹿にするな!」


 私たちの会話が聞こえたのだろう。

 ここからでは背中しか見えないが、奥で調理している様子のエミールくんが怒った調子で叫んできた。


「ったく……こんな抜けてる女が神子様って本当なんですかぁ、ジェラルド様?」


「しつこいぞ、エミール……。お前こそ神子様を馬鹿にするな」


「あああ、ジェラルド! エミールくんを怒らないで!」


 隣にいるジェラルドから、冷えた視線がエミールくんに飛ぶ。

 待て待て待て……!

 

 まず、私はジェラルドのことを馬鹿になどしていない。でも、私が抜けてることは間違っていないから、エミールくんの言葉を否定できないんだけど!

 ああもう、自分でも何が言いたいのかよく分からなくなってきた。とにかくなんでジェラルドがそんなに怒るんだろう……!?


 はらはらしながら二人の様子を見守っていると、料理が完成したのかエミールくんがトレイに食事を載せてやってきた。


「ほら、神子様。食事をどーぞ」


 めっちゃやる気ないな……。

 エミールくんが面倒くさそうにテーブルの上へ器を置いた。

 ジェラルドはエミールくんを厳しく睨みつけると、すっと目の前にあった椅子を引く。


「さ、神子様。どうぞお座りください」


「あ、ありがとう……」


 行ったことがないけど、高級ホテルのディナーとかってこんな感じに椅子とか引いてもらうのかな? いや、イメージ的には執事とお姫様みたいな……。

 こういうことをされたのは初めてで、なんだか気恥ずかしい。


 だけど私のそんな気持ちは、目の前に置かれていた器の中身を見たら吹っ飛んでしまった。


「う、わぁ……美味しそう!」


 器の中では、海の幸がたくさん入ったスープがほかほかと湯気を上げていた。

 さすが、三方を海に囲まれた小国なだけある。普段食べるものには土地柄が出るものだ。


 エミールくんが「ん」とスプーンを差し出してくれる。私はそれを受け取ると、早速食事をいただくことにした。


「美味しい〜……。幸せ~……」


 昨日食べていないせいもあって、温かいスープが体に染み渡る……。

 のだが、それよりも。


「エミール、神子様に対してその態度はなんだ……!」


「ジェラルド様、ボクには彼女が敬うべき相手だとは思えません……!」


 ……後ろでジェラルドがエミールくんを叱っているのが、ものすごく気になるんですけど。


 なんか、エミールくん……いろいろとごめん。

 私からすると、エミールくんの態度の方が普通だと感じる。

 異世界から突然やってきた身元不明の人間を、いきなり神子として敬えという方が無茶な話だ。

 むしろ、ジェラルドの『神子様』に対する態度の方がおかしいと思うのは気のせいか。


 私はこの異世界に来て一番の居心地の悪さを感じながら、ありがたくスープを口に運んだ。

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