1・始まりは衝突で
よろしくお願いします!
世の中、努力だけではどうにもならないことがある。
例えば、顔。
こればかりは整形でもしない限りどうにもならない。化粧という手もあるが、あいにく私はそれほど得意な方ではない。
例えば、身長。
厚底でも履けばごまかせるかもしれないけど、切ないよあれ。ついでに、慣れない高さの靴なんか履いたらすっ転ぶ未来しか見えない。
……つまるところ。
私、立花葵は、平々凡々な顔立ちでどちらかと言えば童顔の、148cmのちびってことだ。
じーっと鏡に映る自分を見る。
肩で切りそろえた茶色の髪と茶色の瞳。動物に例えるならたぬきだ、と友達に口を揃えて言われたのは記憶に新しい。
――高校こそは! 先輩扱いしてもらえる先輩になるんだ!
中学3年生のとき、後輩から小学生に間違われたことはなかなかに苦い思い出だ。
赤いリボンをきゅっと結ぶ。ジャケットよし、スカートよし……。
今日から高校二年生になる。
今日から、先輩になる。
前向きで元気なことしか取り柄は無いけど、それでも今日から二年生だ!
高校でこそは、先輩らしくなれるように頑張ろう!
「いってきまーす!」
私は学生カバンを手に持つと、元気よく自宅を飛び出した。
「うわ、きれーい」
高校へと続く見慣れた通学路には、桜並木が広がっていた。
左右の道沿いに植えられた桜からひらひらと花びらが舞い落ちて、幻想的な風景が作り出されている。
アスファルトに薄桃色の花びらが散っていて綺麗だ。
「あ!」
視界に広がる花びらの隙間から見覚えのある姿が見えて、私は思わず声を上げた。
少し先を歩いているのは、幼なじみの絵里だ。
小中高と同じ学校に通う絵里とは大の仲良しだった。
絵里に話しかけようと私は足を早める。
しかしその瞬間――。
「絵里ー、おはよ――ってうわっ!?」
体が何かとぶつかった。
……ちょっと待って?
私の前には何も無かったはずだ。
桜の舞う、いつもの通学路。通勤通学にはまだ少し早い時間で周囲の人はまばら。ぶつかるようななにかなんてなかった。
……あれ?
なんだか、足元の感覚がおかしい気がする。
私は、硬いアスファルトの地面に足をついていたはずだ。
それなのに、突然安定感が無くなった。
なんだか……とてつもなく嫌な予感がする。
そろりと視線を下に向ければ、アスファルトを踏んでいたはずの私の両足は地面についていなかった。
「え……」
ぽっかりと、穴が開いている。
深すぎて、底が見えない。
「待って……?」
声を上げた時にはもう遅い。
引力に引かれるように、一気に落下が始まる。
「う、嘘でしょーーーー!?」
私は助けを求めるように、宙に向かって手を伸ばした。
だが、伸ばした手は無情にも空をかくばかり。
――あ、私の人生終わった。
神様、仏様。
私が生きてきた、短いながらも16年間。
このたった16年間で、いきなり得体の知れない穴に落とされるようなことを私はなにかしましたか?
私は、良くも悪くも至って普通に生きてきた人間だ。
取り立てて大きな悪事なんて、働いたことはないんですよ。
だから、誰か助けて。