第25話 お父さん決定戦
これまでのおさらいをしておこう。
私――花園美咲は、新米編集者である。編集長に命じられ、初めて担当することになった作家――袖野白雪は、『恋愛が理解できない恋愛小説家』であった。
白雪さんに恋愛感情を理解させようと奔走した結果、白雪さんは恋愛感情を理解することに成功した――ただし、同性である私と、恋に落ちたのである。
最初は「私、異性愛者だと思ってたけど、バイセクシャルだったのかな……?」なんて悩んでいたが、今となっては過去の話というか、白雪さんが目に入れても痛くないほど可愛すぎるので、もはや大した問題ではない。
お互いの家族に挨拶を済ませ、交際を認められて、私達は幸せの絶頂である。
そして――
国会で白雪さんのお父様が国会議員として提出した『同性間の婚姻についての法案』が可決された。
男性同士だろうが女性同士だろうが、結婚して婚姻関係を結ぶことを国に許されたのである。
私と白雪さんは早速結婚式を挙げた。服装は二人とも悩んだが、おそろいのウェディングドレスにした。
小さな教会。白雪さんのご家族は来なかったが、私の両親と、明神先輩とその彼氏さんは招待に応じてくれて、ささやかな結婚式を済ませた。
私の親に明神先輩を紹介すると、「いつも娘がお世話に……」とペコペコ頭を下げ通しだ。
その明神先輩も同性愛者だと聞くと、「そういう恋愛の形もあるのねえ」と妙に感心していた。
「俺たちもいつか結婚式挙げるからさ、招待したら来てくれる?」
「もちろんですよ」
明神先輩の彼氏さん――風間、という名字らしい――に訊かれて、私は大きくうなずいた。
みんな笑顔で、幸せな結婚式だった。
新婚旅行は国内の温泉巡りにした。
そして、しばらくして落ち着いてから、私達は養子を迎え入れようと、児童養護施設を訪れた。
赤ちゃんから中学・高校生くらいのある程度成長した子供まで、年齢は幅広く、私達は随分悩んだ。
私達は二人とも母乳は出ないので、赤ちゃんを育てるのは流石に難しそうだ。いや、ミルク自体は粉ミルクでもいいのだろうが、共働きの状態で赤ちゃんを育てるのがいかに難しいかはよく聞く話である。白雪さんは自宅で仕事できるけど、もし私が出版社や他の担当作家――今は松井光一くんしか面倒見てないけど――の元に行っている間に赤ちゃんに何か起こったら、生活能力ゼロの白雪さんだけで対応できるとはとても思えない(本人に言ったら多分心外だと怒ると思うので言わないけど)。
かといって、中学生や高校生などの多感な時期の子供に私達同性愛者の両親を受け入れてもらえるかは微妙なところであった。まず施設に女性二人で来た時点で彼らからは奇異の目で見られていたのである。
はて、どうしたものか、と二人で話し合っていると、小学生くらいの男女三人組が元気に走り回っているのが見えた。
もはやそれは運命というか、一目惚れと言ってもいいだろう。私達は二人とも、あの子達にしようと何故か思えた。
本当は一人か二人育てるつもりだったが、あまりに仲のいい三人組を引き離すのは心苦しかったので、三人とも引き取って育てることにした。
小学校中級生の男の子が二人と、下級生の小さな女の子が一人。今日から私達があなた達の親だと言うと、「これからよろしくおねがいします!」と三人声を合わせて元気よく挨拶してくれた。これはうまくいきそうな予感がした。
「うわー! ひろーいおうち!」
「おかあさん、おかねもちなの?」
もう「おかあさん」と呼んでくれている。適応力が高い。
「白雪お母さんはお金持ちなんだよ」
「すごーい!」
私が教えてあげると、素直に驚く子どもたち。微笑ましい。
「まずは君たちの名前を教えてもらおうかな」
「ぼくは瞬!」
「ぼくは昇陽!」
「わたしはねえ、一花!」
「うんうん、みんな素敵なお名前だね。私は美咲」
「わたくしは白雪です」
自己紹介を済ませると、一花から質問が飛んできた。
「どっちがお父さんなの?」
ピシッ、と空気が固まった気がした。恐る恐る白雪さんの顔をうかがうと、白雪さんはにっこり笑っている。
「もちろん、わたくしがお父さんですよね?」
「いやいや、こんな美女なお父さんがいますか」
「美貌とお父さんかどうかは関係ないと思いますが」
いや、たしかにそうなんだけど。
「でも、姓は『花園』ですから、この場合姓を名乗っている方が父親ということになるのでは……!?」
そう、白雪さんは『袖野』という姓を捨て、『花園白雪』となったのである。まあ、作家としてのペンネームは『袖野白雪』のまま残してあるが。
私と白雪さんはしばらく拮抗状態のまま火花を散らし合う。
「あの……もしかしてケンカ、してるの……?」
一花が不安そうに言ったので、私達はハッと正気に戻る。
「大丈夫、ケンカじゃないよ」
「ええ、一花は何も悪くありませんよ、安心して」
私達は慌てて一花を安心させようと笑いかける。
「……美咲さん。のちほど父親として相応しいのはどちらか、はっきり白黒つけましょう」
「いや……もういいですよ、どっちが父親でも……」
夜の営みでは私が攻めることが多いが、身の回りの世話をしているのも私なので、なんかもうどうでもいい。
というわけで、晴れて父親になった白雪さんは誇らしげな表情をしていた。
そこへ、玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
私は小走りに玄関に向かう。家がなまじっか広いせいで移動も大変なのだ。子どもたちが走り回っても平気なのはいいんだけど。
玄関の引き戸を開けると、見覚えのある顔がそこにあった。
「お久しゅうございます、美咲様」
「――高城。何をしに来たのです」
あとから来た白雪さんが苦々しい表情で高城を睨む。
「旦那様からご祝儀をお届けに参りました。結婚式にはご多忙のため参加できずじまいでしたからな」
「ええ、ええ、国会議員というお仕事はさぞかし忙しいんでしょうね」
白雪さんは皮肉交じりにため息をつく。
「まあ、そう邪険にされませんよう。なんだかんだで結婚できたのは旦那様のおかげでございましょう?」
「……まあ、それは認めざるを得ませんが」
白雪さんのお父様が法案を提出しなければ、私達は結婚できなかった。
それを素直に認めると、高城は満足そうにうなずき、アタッシェケースを取り出した。
「それは?」
「ご祝儀でございます」
ケースを開くと、札束がぎっしり詰まっていた。わぁ~、刑事ドラマの身代金みた~い。
「お父様ァァァ! こんな大金、家に置いたら危なくて落ち着かないでしょうが! せめて口座に送金してくださいよ! これだから時代遅れの人間は!」
白雪さんは頭痛がするというように頭を抱えた。
「それと、『孫の顔を見せに来い』とのことでございます」
高城は笑みを崩さない。孫の顔を見せに来いって、さっき養子を引き取ったばかりなのにどうやって情報を得ているんだ。怖い。
「とりあえず、その現金はわたくしの口座に振り込んでおいてください。こんなもの、家に置けません」
白雪さんは眉間を押さえながら高城に指示を出す。
「かしこまりました。お嬢様がお喜びのようで何よりでございます」
「喜んでいるように見えますか?」
「はい、とても」
白雪さんもお父様も、なんだかんだ言いつつお互いツンデレなのかもしれない。
そう思うと微笑ましくもあった。
まあそういうわけで、新しく家の子供となった瞬、昇陽、一花を迎え入れて、私達の家族としての生活がスタートしたのであった。
〈続く〉




