願い事と呪いと月と ~始~
声に出して読みたい、または
声に出したくなる台詞や口調を意識しています。
良ければ誰かに「成って」下さいね。
願い事は月明かりに
呪い事は月隠れに
いつか耳にしたような
ありきたりを真に受けた私達は
ひたすら月の無い夜を待ち侘びていた。
その数と同じだけの朝を迎えていながら
この瞼の裏に浮かんでいるのは常に薄闇で
脳裏に思い描くのは常に暗闇と私達の…
「また起きてたんだ」
開いた扉から覗く顔。
咎めるような目、
それでいて共感するような声。
私はこんな目をしながら
こんな声で喋る人間を彼以外に知らない。
あまりにもチグハグ過ぎて
喉を通り越した違和感の後味みたいに
うっすらと親しみを覚えるのだ。
「起きてるねえ…」
そう言いながら部屋の中に入るよう促す。
開いたままの扉は扉ではなく
あちらとこちらを繋ぐ路になってしまうから。他意は無い。
…ように、私は振るまえただろうか。
「…やっぱり眠れないか」
月明かりに照らされた机の上を見ながら
彼が呟いた。
良いと噂される入眠の類はとうに試し尽くして
結局落ち着いた先は飲み慣れたハーブティーだ。
「気休めにはなってる」
こんな身体でも、
せめて内臓にだけは負担をかけたくない。
それくらいは自分を労わっても良いだろう。
こんな…自分でも。
「気休めね。それも大事だ…一口もらっても?」
心臓が跳ねる音を
溜息で掻き消そうとして
失敗する。
そもそも心臓が跳ねる音なんて聞こえないのに。
溜息は口から零れた途端に
浅く短く途切れ途切れの期待を吐露しながら
醜悪な喘ぎの前置きを始めてしまうのに。
私のそんな様子を知り尽くしている彼が
扉を閉めて机に近付く。
月明かりを浴びながら私のカップに口を付ける。
気休め。が、彼の唇を濡らす。
「…ほら、今夜も月明かりだ。願い事の時間だよ」
読んで頂きまして誠にありがとうございました。
藤猫to