福島県編♡
松林の枝に、何かがひらひら踊っている。
真っ赤なリボンだった。
不思議に思って、手を伸ばした私に別の手が伸びてきて、びっくりした。
「ぎゃあ!」
手の先を見た私は思わず叫び声を上げた。
「何よ、叫んじゃって失礼ね!」
相手がフンと息を吐きながら言う。
そりゃあ、叫ぶ。叫ぶわ。
だって、そこには半分姿が透けた女の人が立っていたからだ。
「あ、貴女……、幽霊⁉」
「そうみたいね」
さらりと言われてしまった。
女の人は言ったのだ。
自分は、昨年のバレンタインの日にフラれて自棄酒をし海辺で遊んでて、溺れてしまった人なのだと。
「まあ、気にしないでよ」
「気にするよ!」
私は、もう訳が分からなかった。
でも、自棄酒をする気持ちは分かった。
私だって、片手に缶酎ハイを持ってこの海辺の松林に今居るからだ。
「私だって、フラれたわ! ちっくしょーリア充めー爆発しろー!」
「そうやって吐き出しちゃいなさいよ」
まさか幽霊に慰められるとは。苦笑する私。
「また来なさい。慰め合いましょうよ、バレンタインにフラれた同士」
それから私たちは相手をこき下ろす話で盛り上がった。
「あはは、そうだ。幽霊さんの名前は何なの?」
「わたし? 紗枝だったと思う」
「じゃあ、紗枝さんのお墓にお参りするね。いつか。約束!」
その時だった。
「紗枝……?」
ビックリして、私が振り返るとそこに見知らぬ男の人が立っていた。
「孝博?」
あの真っ赤なリボンを手に持った男の人を紗枝さんは呆然として見ている。
「紗枝、紗枝だよな⁉ お前、今、病院で昏睡状態なんだぞ!」
「は?」
あれ、じゃあ紗枝さん生きてるの?
「お前を冗談でフッてしまったら、こんな事になってしまって。本当にすまん!」
「孝博……」
「紗枝さん、もう一回告白しようよ!」
私の言葉に、紗枝さんはもう一度頷く。
「孝博。好ぎだ、付き合ってくんち……」
紗枝さんの姿が、消えてく。
すると、貴博さんの携帯が鳴った。病院から、奇跡の連絡が来た。
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡語尾に「ち」がつく福島県の方言。
可愛いので、この語尾で攻めてみては如何でしょうか♪