山形県編♡
その日、山形県の僕の住む町には、雨が降っていた。
「涙のバレンタインデーだな」
傘を差しながら、僕は呟いた。
手には、萎れた花束が握られている。
今日、付き合っていた彼女に花束を渡したうえで結婚を申し込もうとしていた。
が。
「ごめん、貴方とは別の人が気にになってしまって……。別れて欲しいの」
見事フラれた。
涙も出なかったのは、最近の彼女の様子から察知していたのかもしれない。
その時。
「みゃあ」
足元から声がした。
ずぶ濡れの猫だった。
「お前、家に来るか? 独りぼっちなんだ」
「にゃあ~」
こうして、猫は家に来た。
未練たらたらしいが、彼女の名前を付けた。
「未海」
「みゃん!」
猫の未海は、綺麗な白猫だった。
「お前、あったかいな……」
未海を抱くと、彼女の事をどうしても思わずにいられなかった。
幸せになってくれると良いな……。
そのまま眠りについた。
眠ったご主人を見て、未海は愛おしそうに鳴く。
その姿が、いつの間にか人の姿になっていた。
「おめのこど、ずっと見てた。好きだず……」
白いしっぽが二本揺られている。
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡語尾に「にゃー」を使うのも山形県の特徴的な方言。
「おめのこど、ずっと好きだったんだにゃー」とか。