宮城県編♡
「先輩、チョコレートくださいよ~」
「……」
学校の家庭科室で、僕は二つ上の先輩に対して甘えるようにそう言ってみた。
何故、家庭科室か。
バレンタインの今日、朝から先輩の教室に休み時間ごとに入り浸ってはそう強請ったからだ。
そして寡黙な先輩が、遂にキレた。
「分かったわよ!」
机を引っ繰り返す勢いで先輩は立ち上がり、唖然とする周りを置いて僕を家庭科室まで引きずって来たのであった。
「先輩、授業は?」
「もうサボりよ……」
「いいの?」
「あんなんで授業に集中できるか!」
先輩はキレると怖いことが分かった。
それから、一体どこから材料を調達したのかチョコレートを刻み、溶かし型に流しいれて、冷凍庫で凍らせた。
僕はふふん♪ と歌いながらその様子を見守る。
もうそろそろチョコも冷えた頃だろう。
改めて、冒頭に戻る台詞を言った。
先輩は、黙っている。
「……私の、どこが良いのよ」
「可愛い所」
「!」
告白はストレートじゃなきゃね。
先輩の真っ赤な顔に対して僕は更に言う。
「先輩、好きだがら。付き合ってけろ」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡青森・岩手・山形県ほか、東北地方の多くで多用されている語尾が「~けろ」。
「~してほしい」「~してよ」と要求の意で使われる。