青森県編♡
(居た……!)
俺は、心の中で叫んだ。
校門の所に、隣の聖クリア女子学院の女子が数人居る。
噂は本当だった。
バレンタインデーの今日、この青浦山商業高校の男子生徒に聖クリア女子学院の女子生徒が施しをくれる。
まさかとは思っていたが、本当の様だった。
俺は何気なさを装いながら一歩一歩、歩く。
正直言うと心臓はバクバクだった。
これで、俺の学年のモテ男子のステータスが決まる。
はたまたクラス内でのカーストも、だ。
前を歩いていた男子生徒が聖クリア女子女子学院の女生徒の一人から、施しという名の義理チョコを貰って歓喜に震えている。もう滂沱の涙状態だ。
校門に辿り着いた俺は、ゴクリと唾を飲み込む。
「……聖バレンタインの贈り物を」
一人の女性徒がボソッと俺に言って、こちらを見もせずチョコを渡してきた。
「あ、あの」
「それでは」
お礼とその他のことを言う間もなく、その子は去ってしまった。
俺は項垂れて、歩き出す。
結局、義理チョコか。
その晩、部屋で義理チョコの包みを剥がして食べようとした時だった。
「ん、何か落ちた」
包装紙とチョコの間から、メモみたいな紙がひらりと落ちた。
『本当は本命チョコ。わった好き♡』
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡「わった」とは青森県で「すごく」「とても」を意味します。
地域によっては「わった」を「たげ」とも言うそうです。