長野県編♡
何で、何で、私は今此処に居るのだろう。
とある山の頂上に……。
「紘くん」
そうそっと呼び掛けても、彼は黙ったままだ。
ずっと、他の山を見て手を合わせたまま黙祷している。
最初からわかっては、いた。
紘くんが私を誘って「慰霊登山したい」と言い出した時、心がズキリと本当に音を立てた。
嗚呼、あの子の事なんだと。
あの子の為なんだと。
何故紘くんはその山自体に登らないのか、気にはなった。
それよりも、何故私を誘ったんだ。
よりによって、今日はバレンタインデーなのに。
分かってるのかな……。
真面目な紘くんの事だから、今の彼女の私を真剣に想ってくれてるからこそ、なんだろう。
気を遣いすぎなんだよ。
そう、詰りたくなる。
まだ目を閉じたままの紘くんに、手を伸ばす。
でも触れられなかった。
大切な一人だからこそ、触れてはいけない部分がきっとある。
そう、言い聞かせて。自分に。
「紘くん。めた好きだよ……ずっと」
私の声は風に乗って、消えていった。
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡「めた」は長野県で「ますます・余計に」といった意味の方言。
「めた好き」⇒「ますます好き」