山梨県編♡
会社のホールに、声が響く。
夜のオフィスにはもう誰も居ないとふんでいたから、尚のこと木霊の様に声が響いた。
でも。
「え、なんて言ったの?」
会社の上司である、月城さんが聞き返してくる。
ヤバい。
つい、故郷の山梨弁で言ってしまった。
「え、あの、そのー」
私は、つい一分前の記憶を呼び出そうとした。
顔が真っ赤で呼吸も荒くて、まるで全力で走った後みたいだ。
心臓がバクバクしている。
「す、好きなんです。付き合ってください!」
どうにかして、声を絞り出す。
けれど。
「あれ、さっきは全く違う言葉で言ったように聞こえたけれど」
「え、あの、その。さっきのは山梨弁で言ってしまって」
「そう。その山梨弁でもう一回言ってみて」
「ええ⁉」
驚く私に、月城さんはつかつかと歩み寄ってきて……。
ドン!
「ひゃあっ」
「山梨弁で告白する月見里さん、とっても可愛かったんだけど」
壁ドンされながら耳元で言われて、私は全身がゾクゾクした。
「バレンタインだから、チョコもくれるのかな? それとも」
ヒソヒソと小声で言われた内容に頭が沸騰した。
涙目で、長身の月城さんを見上げる。
「さあ、言ってご覧」
「意地悪過ぎます」
「さあ、どうかな?」
小悪魔みたいに微笑む月城さんは蠱惑的だ。
「わたしとえべしってくりょう!」
「良く出来ました」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡同じ中部地方でも山梨県の甲州弁は方言が割と強めかもしれない。
「私とえべしってくりょう」とは「私と付き合ってください」という意味。