福井県編♡
「化石チョコレート……」
「うん、とっても面白いでしょう」
僕は、呆気に取られて手元のチョコを見つめる。
笑っているのは博物館の受付嬢をやっている、僕の親戚で年上のお姉さんである瑞菜姉さん。
瑞菜姉さんが、博物館のアピールをしようとして考案したのが冒頭の化石チョコレートである。
骨の部分が白のホワイトチョコ。岩の部分がビターチョコだ。
面白い。
けれど。
「今日のバレンタイン限定企画なの?」
「そうなの。好評だったら通年で売店で販売決定らしいんだけれどね」
茶目っ気たっぷりでウィンクする瑞菜姉さん。
ぱきり、と音を立てて僕はチョコを食べる。
「美味しいよ。案外イケる!」
「案外とは何だ、案外とは」
僕を小突く瑞菜さんは、昔と変わらず綺麗で愛嬌がある。
仕事でも皆が頼りにしてて、この博物館の人気者である。
瑞菜姉さん目当てで足繁く通う人も居るという。
「で、少年。今日は何の目的で来たのか、いい加減教えてよ」
「少年じゃあないし」
僕は不貞腐れる。
かくいう僕だって、瑞菜姉さん目的にして来ている来館者の一人。
それに、来年から同じ職場で働く同僚にもなる。
……まだ、言ってないけれど。
「ほら、少年。行ってみなよこの親戚のお姉ちゃんに」
「……分かった」
目を真っ直ぐ見て、僕は言う。
「瑞菜姉さん。好きやで。付き合ってくれんかの」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。