石川県編♡
バレンタインデーの前日の朝。
とっても嬉しいようで嫌な夢を見た。
私にみんなが山の様にチョコレートをくれる夢。
なのに、たくさんの大きなチョコの包みを剥がして食べたら……。
「固い~! 石川県だけに石ばっかり~‼」
なんて叫ぶ変てこな夢だった。
しかし。
「え、石の様なチョコレート?」
「うん、作ってアイツ等に贈ってやろうと思って」
製菓の専門学校に通う私は、チョコレートを刻みつつ隣にいた円に言う。
今は家だが、学校に居た時から構想は練っていた。
円には図書館で「鉱物図鑑」を借りて来てもらった。
「で、わたしはパシリな訳ですか」
「後でちゃんと試食わけるから」
で、どうにかこうにか、知識と経験をフル活用して作ってみた。
「……驚いた。見た目は本当に石ね」
「ね、イケるでしょ」
そして、バレンタインデー当日。学校。
製菓学校に通う、同級生の男子一同を調理室に呼び出す。
「何なんだよ姫楽々。男ばっかり呼び出して」
代表して、一人が怪訝に言う。
「今日はバレンタインデーよ」
「おお、そうやわ」
「そうだった!」
一同が色めき立つ中、私はテーブルに置いてある包みを指差す。
「どうぞ、お召し上がれ」
「「「やったー‼」」」
ところが。
「な、なんだこれ……」
「石⁉」
「と、見せかけて。まあ食べてみてよ」
私はとある男子の反応だけを待っていた。
「石に見せかけたチョコとは考えたな」
「すげー美味い!」
「おい、待て! これ本物の石じゃんか!」
一人が、涙目で叫ぶ。
「大当たりよ、新くん」
「はあ⁉」
新と呼ばれた男子が訳が分からなという表情で私を見る。
「好きやわ。付き合ってくれんけ?」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。