富山県編♡
「心菜」
「う~ん、あとちょっと」
「こーこーな」
「だからあともう少し五分だけ」
「……もう知らんよ」
「三摩ー‼ 起きろー‼」
「うぇい~⁉」
耳元の盛大などら声に意味不明な言葉を発して心菜は飛び上がった。
「お前、また俺の講義で寝てたのか。いい度胸だな三摩」
「あ、高橋先生。おはようございますー」
「くっそ腹立つ奴や、お前は! 今は午後二の講義じゃ。課題倍な」
くすくすくす。
周りから笑い声が聞こえても心菜はどこ吹く風で、伸びをしている。
その隣で起こし役をしていた僕・大和は呆れて物も言えない。
この前の午後一の講義でも心菜は同じやり取りを違う教授としていたのだ。
もちろん、その時も課題を倍にして出されていた。
「いっぱい勉強できるんだから幸せな事よ~」
と言っていたのを思い出す。
「心菜、昨日の夜寝てないの?」
講義が終わった後、サークルに向かう道すがら尋ねてみる。
すると、心菜はきょとんと僕を見る。
「ううん、七時間も寝た」
「……」
僕は、期待していた答えを望む自分を叩きたくなった。
だって、心菜は毎年、このバレンタインデーに僕にチョコをくれているんだから。
チョコレート作りに凝って、てっきり徹夜でもしてくれたのかと思った。
多分、心菜の「好き」は「恋愛」の「好き」ではないのだろう。
「大和は幼馴染だから大好きだもん」が昨年時の台詞だった気がする。
「……あれ、また寝てる」
気付けば、サークルの部室でまた心菜は寝ていた。
その隣に座り、僕はぷにぷにのほっぺを突っつく。
「……心菜、幼馴染はもう嫌だ。本気で好きになってもいいがけ?」
このど天然には、どうやったら伝わるんだろうな……。
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。