新潟県編♡
今日は何の日かって?
ああ、そうか。
私は朝のテレビのニュースの項目を見てうんざりした。
バレンタインデー。
今日はバレンタインデーなのだ。重要だから二回言う。
「米子、朝からそんなご飯食べて大丈夫なの?」
「大丈夫よ、お母さん。これくらい食べないと元気でないのよ」
米子とは私の名前。古風どころじゃあない。ハッキリ言って、親のネーミングセンスを疑う。
そんな名前にしたのだから、私はすっかりお米が大好きな女の子に成長していた。
朝からもりもりとご飯を食べている。
「……太るぞ」
お父さんも新聞の向こうからぼそりと忠告してくる。
「お姉ちゃんは将来横綱かな♪」
「うるさい!」
小学生の弟が鼻歌を歌いながら茶化してくる。
少しだけふくよかなのが否定できない。
それに。
私は本当に学校の女子相撲部に所属しているのだ。
「お姉ちゃんは、チョコ誰にも渡さないの?」
こちらは私の妹。
ませた保育園児だ。同じクラスの男の子に本命チョコを渡すとかで朝から張り切っていた。
「う~ん、無いかな」
「えー! 花の高校生なのに!」
「うるさい!」
そんなこんなで学校に行く。
そこかしこで♡がたくさん飛び交う光景を目にする。
うんざりだ。
私には、関係無い……。
放課後になって、部室に向かう。
「米子、米子! チョコあげる♡ 義理チョコ」
「義理チョコかい!」
美人マネージャーの和が笑顔で差し出すチョコを有難く受け取る。
「だって、本命は横綱の風山花だもん♡」
和は相撲マニアだ。ぽっちゃりした男性が魅力的だという。
ぽっちゃり……ね。
私は自分を見下ろす。
そして、鞄の中に忍ばせた、誰にも見せていないチョコの包みを思う。
……陸上部の総先輩に渡したい、本命チョコ。
「勇気を出せ!」
ばーんと背中を押される。
いつの間にか、女子相撲部の皆が笑顔で私を見守ってくれていた。
校庭でストレッチをしている総先輩に駆け寄る。
「ふ、ふっとつ好きなんです!」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡「ふっとつ」とは、新潟県の方言で「いっぱい」や「たくさん」を意味するそう。