神奈川県編♡
「私のこと好きっしょ? 付き合うべ! というか付き合いなさい!」
「……は?」
舌足らずな声で言われて、僕はポカーンとして自分より背が低い幼稚園児である女の子を見下ろす。
場所はとある幼稚園。
しかも、僕は(本当は俺と言いたいが)高校の授業の一環でこの幼稚園に実習に来ている。
小さな子どもは昔から好きだが……。
まさか、幼女から告白されるとは。
これって、犯罪じゃあないよな……?
まだ僕は手を出してないぞ、誓って!
「えっと、葵ちゃん? 今はお絵描きの時間だよ。ゾウさん描いてみよ?」
「ごまかさないでよ! わたしのことじーっと見てたじゃん!」
「ええ⁉」
「あ~あ、先生呼んじゃおうかな~。このおじちゃんヘンタイですって」
「はあ⁉」
ツインテールを弄りながら、葵ちゃん(四歳)は僕(十七歳)見遣って言う。
僕は怒鳴りたいのを我慢して、必死に冷静になろうとしている。
十七歳をおじちゃんとかって……!
葵ちゃんはそれからも僕に対してちょっかいをかけるように翻弄してくる。
お弁当の時間になると、僕の隣に座り、
「お兄ちゃん先生、あーん♡」
とまでしてきた。
これにはさすがに、葵ちゃんの担任の先生が青くなって僕から引き離す。
葵ちゃんとはそれからさり気なく常に大人によって離されていた。
「はあ、疲れた……」
実習の一日が何とか終わり、僕は同級生たちと帰路に着こうとしていた。
「お兄ちゃん先生!」
「あ、葵ちゃん! もう帰ったんじゃあないの⁉」
「だって、先生と帰りたいんだもん。それに」
「それに?」
「今日はバレンタインデーだよ? お兄ちゃん先生に本命チョコ渡したかったんだもん♡」
そう言って、葵ちゃんは鞄から本当にチョコの包みを出していた。
「はい、先生! お兄ちゃん先生の彼女はもうわたしだからね♡」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡ほかにも神奈川県では語尾に「~じゃん」「~しょ」等を用いることが多くあるそう。